じつは『必殺シリーズ』の仕事人も断っていた
蜷川氏は、こうも言ったという。
————俳優としてやっていきたいのだったら、どんな役でもやって間口を広げろ。そこから必ず得るものがある。
「蜷川さんの言葉に背中を押されて出演を決心し、龍さんと、現場でときにはケンカもしながら撮影し……。『限りなく透明に近いブルー』があったからこそ、今のぼくがあると思っています」
映画が公開され、大原麗子主演の恋愛ドラマ『たとえば、愛』に出演していたとき、またもや三田村邦彦の俳優人生に大きな影響を与える役のオファーが舞い込んだ。人気時代劇『必殺シリーズ』の仕事人〝飾り職人の秀〟である。
「これもね、実は断ったんです(笑) 人殺しの役はできません、と」
『必殺シリーズ』は、藤田まこと演じる〝中村主水〟が率いる仕事人たちが、金をもらって恨みをはらすという時代劇。〝飾り職人の秀〟は、簪で相手の急所を刺し殺す殺し屋だ。
「しかしマネージャーがすでに引き受けていたので、イヤイヤやり始めたんですが、3ヶ月が経った頃、全身に蕁麻疹ができたんです。医者に行ったら、原因はストレス。原因を取り除かないと治らないと言われました」
自分の価値観では絶対的な悪である人殺しを、たとえ役でもやらなくてはならないことに、心だけでなく身体までも悲鳴を上げたが、それに反してドラマの視聴率は上がり続け、中でも三田村の人気が沸騰。当初6か月の予定だった『必殺仕事人』は、放送期間を3か月延長することになる。
「プロデューサーからそのことを告げられたとき、延長はできないと言いました。ぼくは、約束通り6か月間で役を降りる、と」
このとき、三田村邦彦を引き留めたのは、〝中村主水〟役の藤田まことだった。
(つづく)
三田村邦彦(みたむら くにひこ)
1953年10月22日生まれ、新潟県新発田市出身。1979年に映画『限りなく透明に近いブルー』でデビュー。同年『必殺仕事人』(テレビ朝日)の〝飾り職人の秀〟で注目され、『必殺』シリーズのドラマ、映画に多数出演。1980年に『必殺仕事人』の挿入歌『いま走れ、いま生きる』で歌手デビューし、シングル・アルバムを多数リリース。俳優としての主な出演作は『必殺』シリーズのほか、ドラマ『太陽にほえろ!』(1982−1983 日本テレビ)、映画『太陽の蓋』(2016)、舞台『かたき同志』(2021)『アンタッチャブル・ビューティー』(2022)など。2009年より旅番組『おとな旅あるき旅』(テレビ大阪)のMCを務めている。
【作品情報】
舞台『おちか奮闘記』
2025年1月2日(木)〜26日(日)
三越劇場
作:川口松太郎(『浪花女』より)
補綴・演出:成瀬芳一
出演:丘みどり
三田村邦彦、河合雪之丞、賀集利樹、松本慎也、瀬戸摩純 ほかhttps://mitsukoshi.mistore.jp/bunka/product/7050900000000000000002982412.html?rid=7b90e5db143c44a3a02acbf947dfdfa0
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/mitsukoshi_2501/