賞へとつながることは見込んでいませんでした

 どうやって身に付けていったのか、その秘訣を聞こうとすると、長塚さんは「それは機密事項です」といたずらっぽく返した。

――『敵』は筒井康隆さんの原作小説を下敷きにしています。長塚さん演じる、妻に先立たれた元大学教授が穏やかな生活を送っていたところ、次第に“敵”の来襲への恐怖に苛まれていきます。

「原作自体がすごくパワフルなので、それが映画にも何かしかの影響を与えるとは思っていました。けれど、正直、賞へとつながることは見込んでいませんでした」

(c)1998 筒井康隆/新潮社 (c)2023 TEKINOMIKATA

――モノクロで撮られたことで、より観客の想像を刺激する作品になりましたが、かなり独特の世界観も持っています。後半に登場する「長塚さんの手持ちカメラでの撮影?」と感じる映像も印象的です。

「はい。僕の撮影です」

――そうした経験はいままでにありますか?

「ありません。カメラマンの四宮秀俊さん(『ドライブ・マイ・カー』)や吉田監督の仕事を毎日見ていました。ふたりがその撮影方法がいいと言うなら、それがいいのでしょうと言われた通りにしました」

――非常にインパクトがあって、不穏な空気が一気に増しました。

「観る人を選ぶから冒険でもあると思いますが、成功したんでしょうね」