受かってから芽生えた別の気持ち

──伽耶子は自分以外には演らせたくない……?

「やらせたくないというのではなく、それ以外考えられないんです。もう自分の姿形をしている人が頭の中で動いているので。それ以外は想像が出来なかったんです」

──オーデイション合格の知らせを聞いた時、嬉しいという気持ちよりは、ヘンな言い方ですが、むしろ当然という感じだったんですか?

「まったく当然とは思いませんでしたが、また別の気持ちになってしまいました。“大変なことになってしまった!”と(笑)。お芝居なんて何も出来ない私がどうするんだ、という気持ちになってしまったんです」

 『伽耶子のために』は李恢成の同名小説を原作に、在日する韓国・朝鮮人青年と日本人少女との愛と別れを描いた作品で、日本人初のジョルジュ・サドゥール賞(フランス)を受賞した。この作品で初めて南さんは映画の撮影現場を知ることになった。

「普通は自分の出番がなかったら行かないと思うんですけど、デビュー作は自分の出番がなくとも、毎日スタジオに行ったり一緒に地方ロケに付いて行ったりしていました。映画の撮影とは何たるものかを知る、勉強するために。だから、出演者ではありましたが、スタッフの一人としていつも撮影の現場には居るという感じでした」

 1984年に映画『伽耶子のために』で俳優人生のスタートを切った南さんは、翌年(85年)に昼ドラ『五度半さん』(TBS系)でテレビドラマ、更には86年に舞台『ロミオとジュリエット』でジュリエット役を得て舞台を経験。俳優として確実にステップアップを図っていった。

(つづく)

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南果歩(みなみ・かほ)
1964 年1月20日生まれ、兵庫県出身。A型。1984年、映画『伽椰子のために』(小栗康平監督)でヒロイン役に抜擢されて俳優デビュー。その後、テレビや映画、舞台で幅広く活躍。近年では、朗読にも定評があり、東日本大震災、熊本 地震、能登半島地震後などの被災地へボランティアで出向き、子どもたちに絵本の読み聞かせも行なっている。最近の出演作は、海外ドラマ「Pachinko パチンコ」(AppleTV)、映画『義足のボクサー GENSAN PUNCH』(22)、『MISS OSAKA/ミス・オオサカ』(21)、舞台「これだけはわかってる 〜Things I know to be true」(23)、「木のこと The TREE」(24)。著作にエッセイ「乙女オバさん」、絵本「一生ぶんの だっこ」など。 公開待機作 に映画『ら・かんぱねら』、『ハジマメシテ!(原題:Rules of Living)』、韓国映画『蕎麦(そば)の花咲く頃』、台湾映画『腎上腺(英題:Adrenal)』などがある。

【作品情報】
映画『君の忘れ方』
出演:坂東龍汰 西野七瀬 円井わん 小久保寿人 森優作 秋本奈緒美 津田寛治 岡田義徳 風間杜夫(友情出演) 南 果歩
監督・脚本:作道 雄 
エンディング歌唱:坂本美雨
1月17日(金)より全国公開
配給:ラビットハウス
Ⓒ「君の忘れ方」製作委員会 2024公式サイト
公式サイト https://kiminowasurekata.com/