病気と向き合うということは孤独な作業

 その頃に一冊の本と巡り合った。

『わたしに会うまでの1600キロ』。
――人生の再出発のために長距離自然歩道を3か月掛けて踏破したアメリカの女流作家、シェリル・ストレイドの自叙伝で後にリース・ウィザースプーンとローラ・ダーン出演で映画化されている(日本では2015年に公開)。

「ちょうど治療を受けている時で、最初に映画を薦められて観たんです。そして、これがトゥルー・ストーリーだということを知り、原作を読みました。1600キロにも及ぶトレッキングルートを歩く女性の話なんですけど、歩きながら自分の人生を反芻し考えていくんです。彼女は一人で歩いているので、孤独と向き合うんですが、治療していた私も病気と向き合っていました。病気と向き合うということは孤独な作業なので、自分とリンクした部分があったんでしょうね。そういった意味でも感銘を受けたんだと思います」

 プライベートでは現在60歳。別のインタビューで60歳はリスタートだと話していた。

「40歳になった時も50歳になった時もそんなに心情的に変化はありませんでしたけど、“60歳はちょっと違うな”というふうに捉えているのかもしれませんね」

──ちょっと違う、というのは?

「やっぱり、この10年間で自分の人生の満足感というか達成感というか、そういうものを自分で作らなきゃダメだって、能動的にいこうって思うところがあったんです」

──それまでは受け身というか他力的なところがあったんですか。

「そうではないんですが、”より一層”ということですね。これからの10年は自分の体力や気力の面でも良い時期なんじゃないかなって思えるんです」