20歳で新入幕 師匠の願いも込められた四股名に
十両昇進時に、四股名を変える力士も多いのだが、四股名はそのまま「佐藤」。新十両昇進を祝って、貴乃花親方が所属していた二子山部屋(藤島部屋)の兄弟子をはじめ、多くの後援者が化粧まわしなどを贈呈。佐藤の門出を祝った。
同年九州場所、十両3枚目で11勝4敗で優勝した佐藤は、翌年初場所、20歳での新入幕を確実にした。
と同時に、四股名も新たなものとなった。
その名も、「貴景勝」。
師匠・貴乃花親方から、「貴」の一文字を、そして、戦国武将、上杉謙信の養子、上杉景勝から「景勝」。戦国武将のように、激しく、魂をぶつけた相撲を取ってほしいという師匠の願いが込められた四股名である。
こうして迎えた18年は貴景勝にとって、飛躍の年になった。
春場所、11勝4敗で敢闘賞を受賞。そして、9月の秋場所では前頭5枚目で、横綱・日馬富士から金星を挙げて、殊勲賞を獲得。「貴景勝」の存在は、一気にクローズアップされた。
ところが、秋場所後、誰もが予想できなかった出来事が起こる。
師匠・貴乃花親方が、突然、相撲協会を退職。師匠が不在の力士は、土俵に上がることが許されない。相撲を取り続けるためには、貴景勝をはじめとする貴乃花部屋の力士は、一門などの部屋に所属しなければならないというルールがあった。
貴景勝は、当時のことを多くは語らない。けれども、少年時代から憧れ、尊敬していた貴乃花親方が師匠ではなくなってしまうことに、どれだけ喪失感を感じたことだろう。
一門の親方衆の話し合いの結果、貴乃花部屋の力士は、千賀ノ浦部屋(当時=現・常盤山部屋)に移籍することが決定。
千賀ノ浦部屋には、幕内・隆の勝らの力士が所属しており、貴景勝は新たな環境のもと、11月の九州場所を迎えることになった。
この場所、東小結の貴景勝は、初日、横綱・稀勢の里を破り、6連勝。7日目、関脇・御嶽海に敗れたものの、8日からも白星を重ねて、1敗のまま迎えた14日目は、2敗の大関・髙安との一番。
22歳の若き小結は、初優勝のチャンスを迎えようとしていた。
(つづく)
貴景勝 貴信(たかけいしょう・たかのぶ)
1996年8月5日生まれ、兵庫県芦屋市出身。 貴乃花部屋より2014年9月場所にて初土俵を踏み、2019年3月場所終了後に大関に昇進。 2024年9月場所をもって引退するまで幕内最高優勝4回などの成績を残した。引退後は年寄・湊川を襲名し常盤山部屋の部屋付き親方になった。