佐藤二朗がコラムを書きはじめた理由

佐藤「僕の敬愛する舞台演出家が、尊敬する美術さんに言われたという言葉があるんです。“40歳になるまで仕事は断るな”と。
 なぜかというと、歳を取ると“この人はこれ”と仕事の方向性が決まってしまうと。自分でも思わぬ方向が向いているかもしれないからね。
 それもあって私は、演じる欲求とは別腹で書く欲求もありまして、その欲求を吐き出せるんじゃないかと思って、お受けしたんです。でも、いまだにコラムってなんなのかわかってないですからね」

ーーたしかに、「コラムとは何か」というのは深い問いですね。

佐藤「一応、ウィキペディアとかyahoo!知恵袋で調べたんですが、結果、読んでもわからなかったですからね。まあ、書きたいことは書いていこうってことです」

ーー何で書いていますか?

佐藤「ガラケーです。全部。もうずっとガラケーです。タブレットも持っていますが、ガラケーです。不思議なもので、脚本は手書きなんですよ。自分の頭の速度ともっとも近いのが手書きの速度なんでしょうね。
 ただね、もうなにが書いてあるのかわからないですよ。私の手書き脚本をパソコンで清書できるのは、世の中で私しかいないです」

 唯一無二の演技で魅了する俳優は、紙の上でも唯一無二の表現を突き進んでいた。

■プロフィール
佐藤二朗(さとう・じろう
 1969年5月7日生、愛知県出身。96年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げし、全公演で作・出演。名バイプレイヤーとしてさまざまなジャンルのドラマ、映画に出演し、2008年に映画『memo』で監督デビュー。09年には初主演映画『幼獣マメシバ』で注目され、同時期に福田雄一監督作に出演、存在感を発揮する。近年は主演ドラマ『ひきこもり先生』(NHK)、大河ドラマ鎌倉殿の13人』(同)などが話題に。21年公開映画『はるヲうるひと』では原作・脚本・監督を務め、海外の映画祭で最優秀脚本賞を受賞。主演映画『さがす』(22年)では国内の映画祭で最優秀男優賞を受賞した。23年6月に書籍『心のおもらし』(朝日新聞出版)を上梓。