知性がにじむ物静かな役から、狂気をはらんだ人物まで、自在に行き来する俳優・佐野史郎さん。日本のアングラ演劇の最重要人物・唐十郎氏が主宰する「状況劇場」で活躍したのち、映画やテレビへ活動の場を広げ、ドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS・1992年)で演じたエキセントリックなマザコン“冬彦さん”はセンセーションを巻き起した。
 テレビや映画に欠かせない名優には、ミュージシャンという別の顔がある。佐野さん自身が人生最大の“THE CHANGE”と語る、2020年に発覚した多発性骨髄腫の闘病時も、病室で片時もギターを手放さなかったという。表現者・佐野史郎にとって演技とは、音楽とはなにかをじっくり語っていただいた。【第1回/全5回】

佐野史郎 撮影/有坂政晴

 2023年、“佐野史郎 meets SKYE”名義でアルバム『ALBUM』を発表した佐野史郎さん。SKYEとは、はっぴいえんどやキャラメル・ママ、ティン・パン・アレイ、サディスティック・ミカ・バンドなどで活躍し、日本のポップミュージックの礎を築いた超レジェンド、小原礼さん、鈴木茂さん、林立夫さん、そして松任谷正隆さんが組んだスーパーバンドだ。

 多くのアーティストが願っても、なかなか共演がかなわない音楽界の巨人たちはなぜ、俳優・佐野史郎とコラボレーションするのか。そのわけを尋ねると、佐野さんがこれまでに歩んできた道程、そして、日本のサブカルチャー史を辿る壮大な旅に誘われることとなった。

「SKYEの皆さんと一緒にアルバムを作ることになった経緯は……、さかのぼるときりがないけど、ひとつは高校時代に鈴木茂さんらが在籍したはっぴいえんどを熱心に聴いていたことがあるでしょう。
 そのあと、はっぴいえんどにいた細野晴臣さん、林立夫さん、松任谷正隆さんでキャラメル・ママ、のちのティン・パン・アレイへとつながっていくわけです。そうした、いまでいうところのシティポップの源流ともなった人たちが高校時代に組んでいた幻のバンドがSKYEであり、小原礼さんもそのメンバーでした」