「僕にとってまぎれもなく“THE CHANGE”である、唐十郎さん率いる状況劇場に入ったこと」

「劇団に在籍していた若かりしころ、音楽も好きだったのでキャラメル・ママやティン・パン・アレイのライブを見に行っていました。また、僕が立っていた舞台のひとつ、『渋谷ジァン・ジァン』という小劇場では、よく音楽ライブも行われていたんです。それで、ロックバンドと一緒に舞台をやったり、そのバンドがまるまるユーミン(松任谷由実)さんのバックバンドを務めていたり……と、そんな時代ですね。
 僕にとってまぎれもなく“THE CHANGE”である、唐十郎さん率いる状況劇場に入ったことで、芝居だけでなく劇中歌なども一部担当するようになっていきました。すでに、音響や作曲を手がけていた安保由夫さんや、劇中歌を多数手がけられた小室等さん(六文銭のリーダーで、日本フォーク界をけん引した人物)がいらっしゃいました。
 小室さんと一緒に僕の曲をレコーディングする機会に恵まれたことがあり、そのときに、サディスティック・ミカ・バンドなどで活躍した音楽プロデューサーの加藤和彦さんと北山修さんによる名曲『あの素晴らしい愛をもう一度』で、素晴らしいギターを弾いた石川鷹彦さんともご一緒することができたんですよ。20代後半、そうしたプロフェッショナルな方々とお仕事させていただけるようになったことで、僕の音楽活動に転機が訪れましたね」

佐野史郎 撮影/有坂政晴

 インタビュー中、始終穏やかで物静かな語り口の佐野さんは、やや控えめにも映るが、その内側に宿る表現への真摯(しんし)な姿勢や独自のセンスは、クリエイターの感性を刺激するのに十分だったに違いない。ゆえに、70~80年代、インディペンデントな表現していた一人として、佐野さんがポップカルチャー史に残る偉人らと直接的に交流してきたことは、とても自然なことだったのだろう。