■「自分の好きなものしか見ないことで、自分の視野が狭くなってしまう」
富野監督は、たまたま早朝につけた一本の映画から新たな発見を見出している。その視点の柔軟性はどこで培ったものなのだろうか。
「物の考え方として、自分が正義だとか、自分にあった職業とか、自分の好みとかって今の人たちは平気で言うじゃない。でも、それは絶えず自分を狭めているということなんですよ。自分で自分の視界を狭めていたら、“チェンジ”もくそもない話でしょう。
SNSのいけないところがあるのは、自分の好きなものしか見ないということで、それでは視野が狭くなってしまうんです。6歳とか7歳とかでスケート選手やピアニストやバイオリニストだったり、ドラマに出たりと天才的な子はいるんだけど、そんな子は本当にごくわずかでしょ。普通の子はある程度の能力しかないんだけど、自分は特にやりたいこともないって子のほうが普通は多いでしょ?
だったらそういう子はどうしたらいいかって言うと、職場が手に入ったら御の字で、自分にあった職業とかって悩むんではなく、職場にどう適応していくか考えることが大事なんです」
富野監督はこの日の取材で、「もともとアニメ志向ではなかった」「ガンダムについて敗北感がある」と自分の過去の仕事を振り返った。
自身についても厳しい目を向ける、その姿勢こそが「変化」を生む、富野由悠季ならではの創作の秘訣なのかもしれない。
■プロフィール
とみの・よしゆき
1941年、神奈川県小田原生まれ。アニメーション映画監督・小説家。日本大学芸術学部映画学科卒。64年、虫プロダクションに入社。『鉄腕アトム』の脚本・演出を手がける。その後フリーに。79年に『機動戦士ガンダム』、80年に『伝説巨神イデオン』ほかの原作・総監督として作品を生み出している。2014年に『∀ガンダム』以来14年ぶりとなる新シリーズ『ガンダム Gのレコンギスタ』をスタート。2019年から2022年にテレビシリーズを再構成した映画5部作劇場版『Gのレコンギスタ』を公開。斧谷稔名義で絵コンテ、井荻麟の名義では作詞を手がける。