1958年に福岡県で生まれ、早稲田大学政治経済学部を卒業。出版社勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビューした小説家の白石一文。白石一郎を父に持つ彼のTHE CHANGEとは。【第1回/全2回】

白石一文 撮影/イシワタフミアキ

 僕の人生にとって最初にして最大の転機は作家・白石一郎の子に生まれたことでしょう。幼い頃から、父が仕事をする背中を「あんなふうになったらおしまいだな」と思いながら眺めていました。というのも、彼の生活はとても単調で世界も狭かったので、とてもつまらなく見えたんです。

 父は1955年にデビューしましたが、僕が幼い頃はまだ原稿料がほとんど入らないような状態で、家には金がない。だから趣味といっても、ちょっとパチンコに出るとか、釣りに行くぐらいでした。また、手掛けていたのが主に時代小説だったから、どこかに取材に出かけるわけでもなく、ただひたすら資料を読んで書くだけ。やがて、少しは売れるようになってもそんな生活は変わりませんでした。

 ずっと家にいて何かを書いている。

 あんな地味な人生はいやだ。僕はもっと華やかで派手な人生を送りたい。本気でそう思っていました。でも、気がつけば父と同じような生活を送るようになっていましたね。

 作家なんて派手な生活をしているんじゃないかと想像されるかもしれませんが、実際には極々地味です。あまりにも動かなすぎて自分で自分がお地蔵さんに思えてくるぐらいです。外出もあまりしないから、女房以外の人の顔を見ることすら珍しい。もっと人並みに毎晩飲みに行ったり、アウトドアをやってみたりなんて生活をしていたかったのに、ほんと「こんなはずじゃなかった」ですよ。けれど、それでも小説を書くのは楽しいんです。ある種の麻薬というか、呪いのようなものですね。