ハンドサインを学ぶためアルゼンチンに短期留学

 この空間を日本でも作りたい──番組のロケから帰国後、そう思ったシシドさんはハンドサインを学ぶために2か月間の短期留学を決意し、2018年にアルゼンチンに渡航した。

「アルゼンチンのハンドサインの学校には私のようなミュージシャンだけではなく、学校の先生や精神科医の医師など様々な人が習いに来ていました。それぞれの分野で色々な解釈に変えて表現して使っているんです。バスケス氏自身もアルゼンチンの文化省から賞を貰っていて、ひとつのカルチャーになりつつありますね」

 短期留学から帰国したシシドさんはドラマーやパーカッショニストらの有志を集い、リズム・イベント「el tempo」を主宰。ここではシシドさん自らが100種類以上のハンドサインを駆使しコンダクターを務めた。そして2021年にはel tempoとして東京パラリンピックの閉会式に参加した。演奏は、2分間という短い限られた時間だったがーー。

「最初にお話を戴いた時はビックリでした。スタッフ方のお話を聞くと、サインの意味さえ知っていれば、どんな国の人でも、どんな年齢の人でも一緒に音楽を奏でることが出来るという、そのサインシステム自体に共感して誘って下さったということだったんです。すごく有難かったですし、ほんとにそれをきっかけに認知していただけたのでとても良い機会になりました」

 デビューして10年以上のキャリアの節々で様々な出会いがあり、その都度変化していった。

「様々なミュージシャンの方と一緒に音楽を作らせていただいて、学ぶこともいっぱいありましたし、変化もあったと思うんですけど、本当に劇的に変わったのは先ほどお話した2018年の留学だったと思っています。
 この年が私にとっての節目だったと思うんです。el tempoを始めて、自分が使ってきたドラムやシンバルの廃材を使ったLAZZULというアクセサリーのブランドを始めたのもこの年でした。何か自分で行動を起こして物事を始めるということ、海外にひとりで行って2か月過ごすということも初めてでしたし、その場で“行動を起こせば何とかなる”ということに気付いたんです。
 最初は家から出るのもすごく怖かったんですけど、出てしまえば何とかなるし、スーパーに入ればなんか買えるんですよ(笑)。本当に日常のことですけど、そのちっちゃなことがすごく大きな気付きになったんです。そういう単純なことがわかったことが全てにおいて良かったなって。自分の行動、言動でちゃんとアクションを起こせば周りのモノゴトが変わっていくし動いていくんだということを知れた、そして責任を負っていくということも含めて、ものすごく転機になったと思います」