■国会議事堂の前で見た紙クズだけの景色
富野監督はこの日の取材で「空気感をつかむこと」の重要さ、難しさについてたびたび語った。「空気感」をつかむという経験は、演出家として、絵コンテを描く上で何より必要なことなのだという。
「ぼくが大学1年のときというのは、60年安保闘争が絶頂期で、6月15日に樺美智子さんという学生がデモの中で亡くなったという話を聞いて、田舎からポッと出だったぼくは何も知らず傍観していながらも、その数週間後にどうしても気になって国会議事堂の前に行ったんですよ。
そうしたらすでに闘争が終わって完全にシーンとしているんだけど、国会議事堂の前の道路に紙クズが風で飛ばされているだけっていう景色で、“つい数週間前のあれはなんだったんだろうな”と思ったんです。
いま写真を見返しても分かる通り、闘争中は国会議事堂の前を何万という人が取り囲んでいる状況だったんだけど、わずか数週間ほどで本当にシーンとしているわけです。ぼくは安保そのものについても知らなかったから、これは、なんなんだろう……と。“東京のど真ん中でこれかよ、国会議事堂の前でこれかよ”とその景色を見て衝撃を受けた経験をしました」
これが富野監督の「人生が変わった日」、THE CHANGEなのだという。
「自分が変わっていくための経験がどこにあったかというと、おそらく、このことが結局一番の原因になった気がしますね」