■「ギレン・ザビの演説は、学生運動をやっていなかったら書けなかった」

 その後、富野監督は日本大学の自治会に所属し学生運動に参加。日大自治会連合の中央執行委員会として2年間活動をする。

「私学連合の集まりをやって、自治会や労働組合について知ることができたけど、この運動っていうのはどうも怪しいなって思った。だって学生関係ないんだもん。安保のときに一般学生を巻き込むことができたのは、とても政治的な動きがあったからとか、その政治的な運動を遮断するために私学連っていうものが作られたらしいってことも分かった。
 そして樺美智子さんが殺された話はどういうことなのかということも分かってきて、うかつにこういうものに巻き込まれたらどうなるかってことは考えました」

 そこから私学連、そして日大連合会の執行部を辞め、1年半は芸術学部の単位を取るために毎日学校に通ったという富野監督は、「それまで小田原市しか知らない完璧なノンポリだったんだけど、“あれ?”という感覚でいろんな生徒を具体的に見ることができたっていうのが大きかった」と経験を振り返る。

 このことが、1979年から放送された『機動戦士ガンダム』にも少なからぬ影響を与えている。

「ガンダムを作るときにあのときの経験が生きた。ギレン・ザビの演説というのは、学生運動をやっていなかったら書けなかった。伊達じゃないんです。大衆に向かって演説をするというこの経験値がなければ、ぼくはガンダムを作れなかったなと思います。

 全然違う場所に行って、いやでもそこの空気感を身につけるしかない。それをしないと、やはり作品を作るというところにはいけないんです」

■プロフィール
とみの・よしゆき
1941年、神奈川県小田原生まれ。アニメーション映画監督・小説家。日本大学芸術学部映画学科卒。64年、虫プロダクションに入社。『鉄腕アトム』の脚本・演出を手がける。その後フリーに。79年に『機動戦士ガンダム』、80年に『伝説巨神イデオン』ほかの原作・総監督として作品を生み出している。2014年に『∀ガンダム』以来14年ぶりとなる新シリーズ『ガンダム Gのレコンギスタ』をスタート。2019年から2022年にテレビシリーズを再構成した映画5部作劇場版『Gのレコンギスタ』を公開。斧谷稔名義で絵コンテ、井荻麟の名義では作詞を手がける。