「漫画の方向性」におとずれた「THE CHANGE」

「漫画の方向性の問題だから、これは本当に大きなCHANGEでした。新しく始めた絵柄は手塚治虫とはまるっきり違うもので、漫画や美術絵、いろいろやって試していました。漫画のサークルに入って肉筆の回覧誌にも投稿していたんですが、当時の本をサークルの人が寄贈してくれて、今、美術展で展示されているんですよ」

 肉筆の回覧誌とは、原稿をそのままとじて本にしたもの。できあがったものは会員同士、郵送で回し読みしていた。楳図さんが投稿した作品の多くは、童話ふうの短編だった。新作の『ZOKU-SHINGO』につながっているように思える。手塚治虫さんから離れていったからこそ、その後の、そして現在の楳図かずおさんができあがったのだ。

「ただ、手塚治虫の絵になっちゃうのは嫌だったけど、そこではない、ストーリー性は見習っていました。漫画でしかできない、とんでもなくウソっぽいけど面白い話。これはやらなきゃと思っていましたが、自分ではなかなか思いつかなかったんですね」

 その葛藤が、後にホラー漫画を生み出すのだが、それはもう少し後の話。長らく「手塚断ち」をしていた楳図さんだが、23年、手塚治虫文化賞特別賞を受賞したことがきっかけで、再び手塚漫画を手に取る。