「手塚治虫が最初の頃に描いたの、みんな面白いんです」

「小学校のとき、友達に漫画を取られてから手塚治虫は読んでいないんですよ。チラッと見たぐらいはありましたけど。でも、手塚治虫文化賞をいただけるって聞いた瞬間、近所の書店で手塚治虫漫画全集に出会っちゃって、買っちゃった」と、語る楳図さんから笑みがこぼれた。

 小学5年生以来、約75年を経て向き合った手塚治虫さんの漫画は、どう感じたのだろうか?

楳図かずお 撮影/冨田望

「それで気がついた。手塚治虫が最初の頃に描いたの、みんな面白いんです。よくできているのは『ロストワールド』と『ジャングル魔境』。登場人物に、みんな表情があるんです。顔もあるけど、身体のポーズであらわす表情がみんな素晴らしくて。

 ただ、手塚治虫本人も言っているけど、『ジャングル魔境』は小説の『洞窟の女王』(H.R.ハガード/東京創元社)を参考にしているんです。でも、そうだとしても、やっぱり面白いんですよ。それを当時、僕たちに紹介してくれた、そのセンスは素晴らしいですよね」

 面白いと思ったものを積極的に漫画に取り入れていく手塚さんのスタイル。手塚さんから離れ、独自の漫画を模索していった楳図さんとは、真逆の方向性だ。

「影響されるのが嫌だから、他人の漫画は読まないことにしたんです。影響を受けてしまったら、そこから離れるためにすごい苦労をしなきゃならない。それだったら、いちから全部、自分で考える、最初から自分で作る努力をしたほうが楽なんです」

 他人からの影響を排除して、独自の漫画を作っていく。小学5年生から始まった楳図さんのスタイルは、80年近くの時を経た今も、変わっていないのだ。

■楳図かずお(うめず・かずお)
1936年生まれ。和歌山県で生まれ、奈良県で育つ。小学校4年生で漫画を描き始め、高校3年生のときにデビュー。『へび少女』などのヒットにより、ホラー漫画の第一人者となる。一方で『まことちゃん』などのギャグ漫画を手掛け、『漂流教室』では、小学館漫画賞を受賞。ほかにも『おろち』『わたしは真悟』『神の左手悪魔の右手』『14歳』などヒット作を連発。タレント、歌手、映画監督としても活躍し、18年『わたしは真悟』で仏・アングレーム国際漫画祭「遺産賞」を受賞。23年手塚治虫文化賞特別賞を受賞している。
■楳図かずお大美術展ーマンガと芸術の大転換点ー
開催期間=2023年6月10日(土)~8月6日(日)
開館時間=10:00~17:00(最終入場は平常時間の30分前)会期中無休
会場=テレピアホール
住所=愛知県名古屋市東区東桜1-14-25 テレピア2F
チケット=前売り券:一般1400円 中高生700円・当日券:一般1600円 中高生800円