最後まで孤独な作業でした

 自分なりの役を深めていく際に、ある程度の枠や制限は与えられていたほうがいいという話はたびたび耳にする。

「“自分で考えて”と言われて鍛えられてきましたし、私自身、自分の中にしか答えはないと思っています。ですから、監督に自分から質問するといったことも、私はあまりしてきませんでした。ただ、今回の『奇麗な、悪』はさすがに質問したくなりました(苦笑)。それでも奥山(和由)さんにははぐらかされてしまったこともありましたし。本当に難しかったですし、最後まで孤独な作業でした」

映画『奇麗な、悪』より (c) 2024 チームオクヤマ

 本作は街中を歩くシーンもあるが、洋館にたどり着き、セリフを話し始めてからは、ピエロの人形や印象的な絵画などは差し込まれるものの、生身の人間は瀧内さんが映るのみで、完全なひとり芝居。瀧内さんの放つ空気や動き、目線はもちろん、当然“声”が、非常に重要な要素となる。

 声といえば、2023年にNHKで放送されたドラマ『大奥』Season2「幕末編」での阿部正弘役の瀧内さんの演技が浮かぶ。若さに溢れた登場時から、病で志半ばに亡くなるまでの、声の変化も見事に演じ切った。

「役の生涯を生き切ることはやったことがなかったので、どう映るかなと、“声”についての変化もやってみたいことのひとつでした。自分の思う阿部正弘というのはやらせてもらえたかなと感じた役でした」

 そして『奇麗な、悪』ではひとり喋り通し。あらためて「自分の“声”は好きですか」と聞いてみると、優しい声と穏やかな笑みを返してくれた。

「そうですね、『奇麗な、悪』でも“声”は重要にはなってくると思います。“独特な声ですね”とか耳心地がいいですね”と言っていただけたりするので、結構好きですよ、自分の声は」。

 ジャケット¥68,200、ニット¥72,600、ドレス¥71,500、中に着たスカート¥52,800(以上08sircus/08book)、ピアス¥66,000、リング¥55,000(ともにcarat a/ISETAN SALONE TOKYO)、その他スタイリスト私物

(つづく)

瀧内公美(たきうち・くみ)
1989 年10月21日生まれ、富山県出身。 2012 年に映画デビューし、2014年、内田英治監督『グレイトフルデッド』で映画初主演。『火口のふたり』(2019)にて第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞など、『由宇子の天秤』(2021)で第31回日本映画批評家大賞主演女優賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞ほか国内外で多くの賞に輝くなど、高い評価を得ている。ほか主な出演作に、映画『日本で一番悪い奴ら』『彼女の人生は間違いじゃない』『敵』、ドラマ『凪のお暇』『大豆田とわ子と三人の元夫』、『クジャクのダンス、誰が見た?』(放送中)、NHK大河ドラマ光る君へ』など。主演最新映画『奇麗な、悪』で1時間超作品の長回しワンカット撮影による一人芝居に挑んだ。公開待機作に浅野忠信主演『レイブンズ』。

●作品情報『奇麗な、悪』
監督・脚本:奥山和由
プロデューサー:豊里泰宏
音楽:加藤万里奈
劇中絵画「真実」:後藤又兵衛
原作:中村文則
出演:瀧内公美
公式サイト: https://kireina-aku.com/