安倍晴明という役柄への思い

 安倍晴明という役の面白さ、難しさを現段階でどう捉えているのか、とうかがうと、広がりを持った視座を提示してくださった。

「野村萬斎さんなど、多くの方がこの安倍晴明を演じていますけど、どこに視点を置くかで違うでしょうし、今回の作品がどういう視点になっていくかは私自身も楽しみですね。

 霊界というか、そういう世界に片足を突っ込んでいる人間で、死んだ者たちとも人間ともコミュニケーションもできる非常に中途半端な存在。その立ち位置が作品として面白いと思うんです。

 1月に私がやっていた忠臣蔵の赤穂浪士の話にも繋がってくるんですよね(初春大歌舞伎『双仮名手本三升裏表忠臣蔵』。新橋演舞場にて25年1月3日~26日に上演された)。赤穂浪士と陰陽師は実は切っても切れない縁があって、史実でも赤穂浪士が滅びた理由の一つが陰陽師であったり……。そういったようなところで、どう捉えるかによって面白さが変わってくる。大変楽しみにしています」

市川團十郎 撮影/有坂政晴

 ファンタジーの世界としても、史実としても捉えられる魅力にあふれる世界。舞台でどう表現されるのか、期待は高まる。

「私も楽しみなんですけど、どちらかというと今回、俯瞰(ふかん)して見ているようなところもあって。“この世界を役者がどういうふうにやるのかな”という思いはあるんです。私自身“團十郎としてのSEIMEIはどうなるのかな”、と思うし、またその携わる方たちの質の高さと、量の多さ、こういったものが、どう展開するのか。そして役者たちにどう光を当てられるのか、もしくはもっと自分たちの方に光を寄せて、作り上げるのか。そういったことも大変興味深い。(開演の)15分前から演奏があるっていうのも、役者じゃないパートに光を当てていくという部分だと思いますし、面白いなと思いますね」