この役を演じるのは広瀬さんしかいない
2000年代には4本撮りました。その後、『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』(2009年)以降はまた映画から距離を置いていました。今回、16年ぶりに新作を撮ることに。脚本家の田中陽造さんの埋もれていた脚本にたまたま出合い、「これを映画化したい」という強い思いが湧いたんです。
『ゆきてかへらぬ』は、大正・昭和を舞台にした、女優の長谷川泰子、詩人の中原中也、文芸評論家の小林秀雄という3人の男女の物語です。
主演には広瀬すずさんにオファーしました。女優選びというのは、撮りたいと思う人にお願いする場合と、原作やシナリオに沿ったイメージに合う人を選ぶ場合とがあります。これまで、女優が先に決まっていたのは、『探偵物語』の薬師丸さんと、ロマンポルノの『濡れた週末』(1979年)の宮下順子さんだけですね。
今回は脚本ありきで、この役を演じるのは広瀬さんしかいないと思ったんです。『ゆきてかへらぬ』は、自分たちが知らない時代の“もがいている青春”のようなものに、「分かるな」という気持ちで観てもらえれば嬉しいです。
今は74歳。残された時間が限られている中で、今後は淡々としたものを撮りたいと考えています。最近の映画は、どんどんストーリーが複雑化し、時代性を無理やり取り入れなければならない状況になっています。そうしたものではなく、日常のふとした瞬間に何かを見つけられる、そんな映画を作りたいですね。
根岸吉太郎(ねぎし・きちたろう)
1950年8月24日、東京生まれ。映画監督、教育者。早稲田大学第一文学部演劇学科を卒業後、1974年に日活に入社し、1978年、『オリオンの殺意より 情事の方程式』で監督デビュー。1981年に一般映画作品『遠雷』でブルーリボン賞監督賞と芸術選奨新人賞を受賞。2005年には『雪に願うこと』で東京国際映画祭のグランプリ・監督賞を含む史上初の四冠を達成し、2009年の『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』ではモントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞、2010年には紫綬褒章を受章している。また、東北芸術工科大学の理事長を務めるなど、教育分野でも活躍する。
『ゆきてかへらぬ』
監督:根岸吉太郎、脚本:田中陽造。
出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生ほか。配給:キノフィルムズ。2月21日より全国公開。
〈あらすじ〉大正時代。新進女優・長谷川泰子(広瀬すず)は、詩人の中原中也(木戸大聖)と惹かれ合い、同棲を始める。文芸評論家・小林秀雄(岡田将生)は中也の詩の才能を高く評価し、泰子の女優としての才能を見いだす。交錯する感情と複雑な関係の中で、3人の愛と葛藤が揺れ動く。
(c)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
公式サイト: https://www.yukitekaheranu.jp/