現在、35歳の岡田将生。2025年はデビューから19年目になるが、役者として脂が乗ってきたことは、このところの活躍から誰の目にも明らかである。映画『ゆきてかへらぬ』では文芸評論家・小林秀雄役に挑んだ。タッグを組んだのは、『探偵物語』『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』の名匠であり、大学理事長の顔も持つ根岸吉太郎監督。邦画界を背負っていく岡田と、1974年に映画界に飛び込み、後進の育成も続ける監督が、THE CHANGEを語る――。【第1回/全4回】

根岸吉太郎、岡田将生 撮影/冨田望

 薬師丸ひろ子さん主演、松田優作さん共演の『探偵物語』(1983)など、多くの名作を世に送り出してきた根岸監督の新作は、『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』でも組んだ脚本家・田中陽造(『ツィゴイネルワイゼン』『セーラー服と機関銃』『居酒屋ゆうれい』)が40年以上前に書いた脚本を映画化した『ゆきてかへらぬ』。

 大正から昭和前期を舞台に、駆け出しの女優・長谷川泰子(広瀬すず)と天才詩人・中原中也(木戸大聖)、そして文芸評論家の小林秀雄(岡田)という才能あふれる3人の若者たちの関係を見つめていく。

――本作の小林は、著名な文芸評論家たる小林秀雄とはまた違う、中原の才能や泰子の強さに感情を揺らす若者でした。岡田さんにとって出演の決め手は何だったのでしょうか? そして根岸監督は岡田さんに感じた魅力を教えてください。

岡田「脚本が読み物として格別に面白かったんです。泰子、中原、小林の3人から目が離せなくなりました。もうひとつは、根岸監督とご一緒してみたかった。監督の現場を自分の目で見て感じたかったというのがあります」

根岸監督「岡田くんのことは、芝居に対していろいろな角度から攻めることのできる人だと、以前から見ていました。商業的な映画やテレビだけじゃなくて、尖った演劇なんかにも参加されていますし、この役に興味を持ってくれたことからも、やはり“役者としての欲”みたいなものがある俳優さんだと感じました。その期待にとても応えてくれたと感じています」

――岡田さんは、初めて参加された根岸監督の現場はいかがでしたか?

岡田「実在の方を演じるわけですし、この現場は僕も特に緊張感があり、慎重に演じないといけない瞬間が多々ありました。ただ小林さんの目線と、僕自身の2人への目線が結構リンクしていたと感じたので、自分が思ったようにやらせていただきながら、それを監督がとても和やかに見てくださっているのを確かめながら立っていました。

 そして、監督から小林さんに関する情報をいただいたりしながら、さらに自分のなかで構築していく時間を持っていくのが楽しかったです。監督の映画を撮る姿勢と無邪気さが僕は本当にすごく好きで、これが映画の現場なんだなと根岸監督により一層教えていただいた感覚です。とても真摯な姿を、本当にたくさん見せていただきました」

根岸監督「今回ね、僕はあまり何も言ってないんです。岡田くんにも、広瀬さんにも、木戸くんにも。ここからこっちへちょっと動いてくれとか、ここでこちらに向いてとか、具体的な立ち位置と動きは指示しましたが、3人の演技は互いのやり取りの中で生まれたものです。

 今回は、資料もたくさん残っているわけですから。台本を読み込みながら考えるところと、実際にこういう人だったという資料からつかんでいくもの、役者自身の中から出てくるものがあって、現場でそれを持った3人がぶつかり合わさる。それがすごくいい流れで出来上がっていっていた。だから僕が芝居を狭めてしまうようなお願いは、今回しませんでした」