根岸監督と岡田さんから見た泰子の魅力とは
――中原も小林も、ひとりの女性・泰子に魅せられました。おふたりから見た泰子の魅力は?
岡田「僕は忘れられない場面があって。中原と別れることを決めた泰子が小林の家に行くシーンで、中原が来て、なぜかそのまま中原も引っ越しについて来るんです。それで小林の家で3人の会話が始まるんですけど、“なんで中原、帰らないんだろう”“なんで泰子、ずっと真ん中にいるんだろう”って」
――たしかに不自然ですよね。
岡田「せめて泰子も小林側に座るとかならひとつ線引きもできるし、自分の中の精神が保たれるけど、なぜだかずっと泰子さんは中立の立場で真ん中にいる。“お酒は、コップはそこだから”と普通に指示を出している小林もちょっと怖い。あそこのシーンはいまだに“この3人、いったい何なんだろう”と忘れられません(笑)。
同時に、あのときすごく思ったのが、泰子の中に揺るがない強さみたいなものがあって、僕、つまり小林はその芯の太さに惚れたんだろうなと。でも、その太さも、のちのち壊れてしまうのだけれど。もともとあった彼女の太さに関しては、小林にはないものだったのかなと思いながら演じていた記憶があります」
根岸監督「映画には出てこないんだけど、“君は詩を書いたほうがいいんじゃないか”と中也に言われて、実際に泰子が書いた詩もそんなに悪くないんだよね。そういう才能とか、花は開かなかったけれど、芝居もそこそこのところまではいったし、才能も持っていたと思う。強い自意識を持った人で、中也とも取っ組み合いまでしていた。
岡田君の言った強さにも重なるのかもしれないけれど、泰子にはわけのわからない強さみたいなものがあった。そんな“わけのわからない強さ”みたいものに、中也は早いうちから絡めとられていたんだよね。そして、小林は中也の目で泰子を見ていた」
――中也の目で泰子を。
根岸監督「中也が惚れている部分の泰子を、小林は中也を通じて見ちゃったところがあると思います。あれがたまたまどこかで出会った女性だったら続かなかった。中也の彼女だったから行っちゃったんだと思います」
岡田「そうですね」