思いを口に出せず、自分を見失ってしまった時期も

 それに対して、常に“はい!”ってやってたんですよ。心の中で“やったことないけどな……”って思いながら。それを口に出せればよかったんだけれども、口に出せずに“大丈夫です”、“頑張ります”を繰り返していた。そうしたら、徐々に体も心もしんどくなってしまって、体が動かなくなってしまった。完全に体調を崩してしまったんです」

「大丈夫です」を繰り返していく中で自分を見失ってしまった時期だったという。気持ちを変えることができたのはなんだったのだろう。

「その頃、インタビューなどで“喜怒哀楽は“喜”と“楽”だけでいいです。“怒”と“哀”はいらないです”なんて答えてたんですけど、それだとひずみが出るんだなというのがわかってきたんですね。やっぱり、喜怒哀楽があっての人間らしさ。感情を表現しないと自分自身が崩れてしまう。

 自分の気持ちをできる限り言葉で伝えるようにと思うようになりました。“大丈夫”とごまかしちゃうと、自分をまひさせちゃう部分が出てくるんです。だから、自分の気持ちって今どういう感じだろう、というのを常に自分自身に問うようになりました。そう心がけてから少しずつお芝居の仕事も向き合えるようになりましたね」

もう一度、俳優の仕事に向き合えるようになって2003年、思いもよらぬ大ヒット作品に巡り合うことになる。

田中美里 撮影/松島豊

たなか・みさと
1977年2月9日生、石川県出身。96年に「第4回東宝シンデレラオーディション」で審査員特別賞を受賞。
翌97年、NHK連続テレビ小説『あぐり』で主演をつとめ、好評を博す。
その後、ドラマ・映画・舞台に多数出演。また韓流ドラマ『冬のソナタ』で
チェ・ジウ演じるヒロイン、ユジンの吹き替えを務めたほか、
柔らかく印象的な声を生かしてナレーターやラジオのパーソナリティーとしても活躍している。
さらに2019年の春、自身がプロデュースする帽子ブランド『ジンノビートシテカッシ』を立ち上げた。

『美晴に傘を』
監督:渋谷悠
出演者:升毅 田中美里 日髙麻鈴
和田聰宏 上原剛史 井上薫 阿南健治 宮本凜音
全国公開中
https://miharu-movie.com/