俺と中上健次と立松和平の3人で掲載率の競争をやったことがある
当然、この境地に至るまでにボツ原稿も果てしなく積み上げた。
ーー若い作家さんは、編集者からまずプロットを求められることも多いかもしれません。
「そうなんだ。俺らなんて"原稿持って来い”でしたからね。持っていってポイって返されて。昔、俺と中上健次と立松和平の3人で掲載率の競争をやったことがあるけど、ある時期は中上が3割、立松が2割、俺は0割3分くらいでした。ボツ原稿を積み上げると背丈を越えますからね」
ーーそれはご自宅に保管しているんですか?
「どこか倉庫を借りているみたいですね。そういえば一度、挿絵画家の西のぼるさんが展覧会をやったとき、生原稿を貸したことがありましたね。俺の原稿をガラスケースに入れて展示したそうで、そうしたらそこにある偉い人が来たそうなんです。原稿の前に立ちじーっと見て、“北方さんっていうのは、手書きなんだ”と言ったと。何を思ったのかわかりませんが、呆れたのかもしれませんね」
そう自嘲気味に笑う北方さんだが、原稿に宿ったエネルギーはその人をはじめ多くの人の胸を打ったにちがいない。
(つづく)
北方謙三(きたかた・けんぞう)
1947年10月26日生まれ、佐賀県出身。1970年、「明るい街へ」で作家デビュー。1983年に『眠りなき夜』で日本冒険小説協会大賞、吉川英治文学新人賞受賞し、以降さまざまな文学賞を受賞。2013年には紫綬褒章を受章した。代表作はハードボイルド小説『檻』『逃れの街』や、『武王の門』を始めとする歴史小説、中国史の長編作品『水滸伝』『三国志』。『試みの地平線』(1988年)はいまなお語り継がれる人生相談界の雄。
【作品情報】
北方謙三、伝説の剣戟小説、日向景一郎シリーズ5カ月連続刊行
風樹の剣<新装版> 日向景一郎シリーズ 1 定価:968円 (本体880円) 発売中
降魔の剣<新装版> 日向景一郎シリーズ 2 定価:880円 (本体800円) 発売中
絶影の剣<新装版> 日向景一郎シリーズ 3 定価:968円 (本体880円) 発売中
鬼哭の剣<新装版> 日向景一郎シリーズ 4 予価:990円 (本体900円) 発売中
寂滅の剣<新装版> 日向景一郎シリーズ 5 完 予価:1,034円 (本体940円) 5/14発売
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