これまで執筆した原稿用紙を積み上げると、御本人何人分の高さになるのかーー。80年代から90年代にかけて「月刊北方」と呼ばれるほど多くの作品を生み出し、最近では御年77歳で2018年から続いた『チンギス紀』の最終巻である17巻を上梓、今年は1月から5月まで伝説の剣豪小説『日向景一郎シリーズ』を5か月連続刊行する。精力的に生き続ける作家・北方謙三さんのTHE CHANGEとは。【第4回/全5回】

現在、1月から5月まで5か月連続で伝説の剣豪小説「日向景一郎シリーズ」を刊行中の北方謙三さんだが、23年には2018年から続いた巨編『チンギス紀』の最終巻である17巻を刊行し、昨年5月に14年ぶりの現代小説『黄昏のために』を上梓、同9月に『小説すばる』で新連載「森羅記」をスタートさせるなど、その執筆量は全盛期も引けを取らないほどだ。
ーーデビュー時から変わらず、ずっと手書きですか?
「そうです。原稿用紙に万年筆で書いています。『黄昏のために』は1編15枚と決めて書いたんですが、原稿用紙最後の行まできっちり書くのは大変でしたね」
ーー自在にデリートしてコピーしてペーストして入れ替えて……なんてできないわけですもんね、手書きは。PCに慣れ親しんだ身としては、そのすごさを実感します。
「それがすごいかすごくないかで言ったらさ、たとえば道路を作るときに作業員がネコで土なんかを運びますよね。あの人たちがやっているのを見ると簡単に見えるけど、冗談じゃない。全身が痛くなるほど大変なんですよ」
ーー持ち上げて動かそうとすると、まったく安定せずグラグラしますよね。
「そうなんですよ。だからプロの人たちはすごいなと思うわけです。でも彼らはすごいことをやっていると思っていないでしょう。それと同じで、俺も食わなきゃいけないから書いているだけで、すごいことをやっているという意識はないです。ただ、“いつまでも書いていたい”という意識はあるね」