アナログ時代の最後は「漫画アクション」の表紙イラスト

 いまではSNSもうまく利用し、デジタル時代に順応している江口さんだが、アナログとデジタルの過渡期でもあった90年代後半に「weekly漫画アクション」の表紙イラストを担当する。そのイラストは後に、『素顔~美少女がいる風景~』(双葉社)として刊行された。その後、デジタル面やSNS など、日々大きな変化があったが、当時と比べて変わったと思うことについて聞いてみると——

「着色も手で塗っていたのは『素顔』までです。アクションで表紙を描いていた当時はすべてアナログで、取材から下書き、ペン入れ、色付けまですべてを1週間かけて仕上げていました。最初の頃はパントーンで、途中からコピックを使っていました。コピックの塗りに関してはこの2年間で極めましたよ。今は線画をPCに取り込んで、Photoshopで色付けしていますが、パソコンでやっても時間の短縮にはなってません。アナログだと多少の失敗も「味」としてあきらめがつきますが、無限に修正できるパソコンだといつまでも修正してしまって際限がないので、大変さは変わりませんね。線画は普通に紙にペンで描いてますよ。デジタルの時代になっても、それはずっと変わりません」

 1998年から「weekly漫画アクション」で1ページ漫画『キャラ者』の連載を始めると同時に、雑誌の表紙イラストも描くことになった。

「街にいる普通の女の子のイラストを描いていました。週刊誌の表紙なので、もちろん毎週です。その時は『キャラ者』の漫画連載も同時にやっていたので、ものすごいスケジュールをこなしていました。どういう1週間を過ごしていたのか……。1週間のほとんど描いていたことは間違いないです。

 1週間のうちに街を歩いてる素人の女の子を見つけてイラストに仕上げるって、無謀にも程がありますよね。見つからない時もあるし、そんなにしょっちゅう絵に描きたいと思う子がいるわけがない。編集者と毎週、都内のいろんな街に行ってましたよ。それこそ吉祥寺の駅とかでもずっと張っててスナップ撮るみたいな。あれ、でも企画としては斬新だったな。いまでも面白かったと思いますよ」

すべてアナログでこなした怒涛の1週間

「街を歩き、僕が描きたい女の子を見つけると、編集者がその子に声をかけて企画意図を伝えて交渉。OKならば先に僕が決めておいた場所に立ってもらい写真を撮り、それを元にイラストに描きおこすんです。もちろん断られることだってあります。途中からは募集というか、僕に描いてほしいという人も現れるようになってだいぶ楽になりましたけど、下書き、ペン入れ、色付けと1週間で仕上げなければいけない。

 当時はすべてがアナログでしたから。写真だってフィルムなので、撮ったらすぐに現像に出さなきゃいけないんです。ものすごく大変だったけどすごく楽しかったですね。北海道や沖縄など地方に遠征したりもして、今考えるとよくそんなこと出来たなと思いますよ。そういう時代だった、というか漫画アクションだから実現できた企画でしょう。他の漫画誌じゃやらせてくれないそんなこと(笑)」

 2023年に開催された『東京彼女』展では、この時の表紙イラストも含め、80〜90年代に愛用した画材パントーン・オーバーレイによる初公開の原画作品も多数展示された。その確かな描写は、人物だけでなく、街やモノが発する精気すら匂わすようで、来場した多くの人を魅了した。

『素顔 美少女のいる風景』(双葉社)撮影/編集部