『身毒丸』では「初めての海を泳ぐ」思いで
宮川さんが音楽を担当した『身毒丸』は「ある意味、ミュージカルのようだった」とご本人は振り返る。音楽が流れ続ける展開は演劇界では異端ともいえる形だった。
「大概、演劇に没頭してる人たちは、そこまで音楽に頼らないというか、なるべくそぎ落としたものに行きがちなんですよね。でも僕は全然違って、台本をもらうと、音楽が聴こえてきちゃってしょうがない。だからそれをそのまま曲にしていくという感じ。それが自分の特技というか、症状みたいなものなんですよね(笑)。でも、そういう感じで曲を準備して蜷川さんにわたすと、半分も使われないんですよ(笑)。ただ、珍しく『身毒丸』ではほとんど使われたんですよね。
あのときは、蜷川さんとお互いに模索して、初めての海で泳ぐという思いで、いろんなヒントをもらったりこっちからも発信したりして、芝居なんだけどミュージカルのような音楽が流れ続ける、音楽が支配した時間軸を作った。そこから龍之介くんは何かを受け取っていて、それが今回の作品にも反映されていくんじゃないかと思ってます」
台本を読むと、頭の中に音楽が流れてくる、というのは中学生の頃からだという。
「中学の演劇祭のときに台本をもらって読んでいたら、“ここはピンク・フロイドのLPのB面の3曲目だな、とか、“ここはキングクリムゾンのあれだ”とか、頭の中で音が止まらなくなったんですね。それは今もずっと変わらない。今回の『ナツユメ』も同じです。何曲か作って、実際にキャストの方がセリフを読みながら演奏したんですけど、音楽の情報量が非常に増えて、普通じゃないものになりましたね(笑)。
普通は“これは駄目だよ、宮川さん。全然違うよ”って話になるんだけど、龍之介くんは、“これなんですよ!”って。“これが僕の求めてた物です!”と興奮していて“他の演出家の人たちは、みんなどうしてこうしないんだろう”って。僕もそうなると楽しいですよね。これとこれがあれば勝ちゲームになるな、という計算みたいなことはできない今回の作品。思った通りに全部やり、でもそれを全部壊す、ぐらいの感覚で作り上げていきたいですね」
みやがわ・あきら
1961年2月18日生。東京都出身。作曲家、編曲家。舞台やアニメ、映像作品など数多くの音楽を担当し、蜷川幸雄演出作品の舞台『身毒丸』と舞台『ハムレット』で読売演劇大賞のスタッフ賞を受賞。2003年〜2013年にかけてNHK教育テレビの番組『クインテット』に出演し、好評を博した。父は作曲家の宮川泰。
Shake&Speare!!Stage『ナツユメ』
原作:ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』(松岡和子 訳)
音楽:宮川彬良
脚本・演出:木村龍之介
2025年6月6日(金)~6月8日(日)
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
公式サイト:https://www.natsuyume2025.com/