期待を背負い最難関大学を目指す高校生の青春

 『僕たちは我慢している』は中高一貫男子校の中学から野球部で一緒だった3人が高校に進学し、それぞれに事情を抱えながら大学受験に挑むというストーリーだ。

「2021年に息子の中学受験を機に『金の角持つ子どもたち』(集英社)を出しましたが、今春、息子が高校3年生になったんです。それで『金の角~』の子たちはどんなふうに大学受験に挑んでいるだろうと思ったのが執筆の始まりです。プレッシャーや期待を背負いながら戦う難しさは、勉強もスポーツも同じ。最難関大学を目指さなければいけないプレッシャーの中で戦っている、私たちの知らない世界にスポットを当てたら面白いんじゃないかと思いました」

 登場人物の1人が数学の教師に「勉強する意味ってなんですか」と問う場面がある。教師は逆に尋ねる。「頑張らず、努力もしないで毎日を楽に生きる。それも1つの生き方だと私も思います。でも、そこに喜びはありますか」

「どんな世界でも、努力をして何かを手に入れた喜びは普遍的なものだと思うんですね。そういう喜びがあることを知ってほしくて、喜びのために我慢をしている彼らの青春を描きました」

 大久保さんは藤岡さんの本がまだ「売れなかった」頃から「藤岡さんの小説が広く読まれるようになった時が文芸復興の始まりです」と言っていたという。

「大久保さんの小説観は、読んだら見慣れた日常に光が差すように生きる喜びが湧き上がってくる作品というもの。私も同じなんです。だから、そう言ってくださるのがありがたかった。私が信じているのは、努力はいつか必ず報われるということ。私がそれを体現することで読者に伝わることもあると思いますし、それが伝えられる小説を目指しています」

藤岡陽子(ふじおかようこ)
1971年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。株式会社報知新聞社を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学留学。慈恵看護専門学校卒業。2009年『いつまでも白い羽根』(光文社)でデビュー。『リラの花咲くけものみち』(同)で第45回吉川英治文学新人賞受賞。『海路』『トライアウト』『晴れたらいいね』(同)『金の角持つ子どもたち』(集英社)『森にあかりが灯るとき』(PHP研究所)など著書多数。