「いいものはいい」という感覚
当時のいわゆる音楽評論家からは『スリラー』の評価はあまり高くなかったという。その中で、「これはすごいアルバムだ」と書き貫いた姿勢はまさに湯川さんの揺るがないスタンスを象徴している。
「『ミュージック・マガジン』の中村とうよう先生は『スリラー』に0点をつけられたんです。“これはブラック・ミュージックじゃない”って。私からしたら“だからいいんじゃない?!”っていう感じ。とうよう先生には“れい子ちゃん、どうして『スリラー』をよかったと言えたのか教えて”ってのちに聞かれましたが。私は“いいものはいい、もっと知って欲しい”っていう感覚でした。そこがやっぱり怖いもの無し<推し活>に繋がりますよね」
エルヴィスから藤井風まで、「いい!」と思ったものを伝えたいという思いは70年余り貫かれている。
「ビートルズの武道館公演で聞いた“キャー!”という歓声もそうです。方向性を持たない明日に向かうエネルギー。男の人はあのとき“座って聞け”とか、“キャーキャー言うな”とか言ってたんですけど、それとは反対の場所にいるのが女性の感性なんです。たぶん、<推し活>って一人で喜んでるわけじゃなくて、“こんなにいいから、あなたも聴いてみて、見てみて”でしょう?“こんなにいいのに知らないの?”って。それはずっと私の中で変わらないスタンスです」
ゆかわ・れいこ
1936年1月22日生。東京出身。読者としての投稿がきっかけで1960年にジャズを専門とした音楽雑誌『スイングジャーナル』で執筆を開始する。以降、音楽評論家、作詞家、ラジオDJとして幅広く活動。エルヴィス・プレスリーやマイケル・ジャクソンといったアーティストに関する原稿を数多く担当したほか、ディズニーのアニメ版『美女と野獣』『アラジン』などの日本語詞を手がけた。
湯川れい子『私に起きた奇跡』(ビジネス社)
定価:1,760円(税込)