「先生、このままだと公開ラブレターのやり取りになってしまいます」

 歌人・俵万智。短歌を一変させたといわれる『サラダ記念日』の著者で、最も有名な歌人のひとりである俵さんからの突然のリプライに、川原さんは大いにあわてた。

「私、ツイッターの仕組みとかわかってなくて、リプライが誰にどう見られるのかわかってなかったので、いろいろあわてちゃって。俵さんのほうから、“先生、このままだと公開ラブレターのやり取りになってしまいます。このアドレスにメールください”みたいなDMを送ってくださって」

ーーなんといういいお話なんでしょう。

「それで、あれよあれよと俵さんと対談することになって。しかも俵さんが、その本の紹介や私とのエピソードを朝日新聞に寄稿してくださって、それで本が爆売れしたんですよ。爆売れって言っても専門書なんで、そんなでもないですけど。本当は文庫化したい、って動いてたんですけど、在庫がなくなっちゃって重版がかかっちゃったっていう。
 
 今年は『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?』が1冊目ですけど、10月には東京書籍から『言語学的ラップの世界』という本が出ます。この本は、まだ詳細は公開はできないんですが、驚くような特典がついてくる予定です。あと、これも詳細はまだリリースできないんですが、北山陽一さんともまったく新しい試みで、子どもも大人も勉強になる本を作っています。自分で言うのもなんですが、この二冊は言語学の世界に風穴を開けるんじゃないかな。

 あの頃の持ち込み原稿を落とされ続けていた自分を励ましてあげたいですね。時は来るから。5年後に来るぞ、って」

 きっかけをつかんだ川原さん。多くの魅力的な著書を読むことができるのは、読者にとっては幸運以外のなにものでもない。

川原繁人 かわはら・しげと
1980年生まれ。1998年国際基督教大学に進学。2000年カリフォルニア大学への交換留学のため渡米。1年間の留学生活を通してことばの不思議に魅せられ、言語学の道へ進むことを決意。卒業後、2002年に大学院修行のため再渡米。2007年マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。米国で教鞭を執ることになり、ジョージア大学助教授、ラトガーズ大学助教授を経て、2013年より慶應義塾大学言語文化研究所に移籍。現在、教授。専門は音声学・音韻論・一般言語学。過去の著作に『「あ」は「い」より大きい!?:音象徴で学ぶ音声学入門』(ひつじ書房・2017年)、『フリースタイル言語学』(大和書房・2022年)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社・2022年)がある。新刊、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を2023年7月21日に上梓。10月には自身のラップ研究をまとめた『言語学的ラップの世界(feat. Mummy-D, 晋平太、TKda黒ぶち、しあ)』を東京書籍より発刊予定。