声の奥行きは大事にしました

 ムオムは“謎の島”の支配者であり、不死身の男。

「どういう声でこの役を演じたらいいのだろう、というのはいろいろなパターンを考えました。家でやると近所迷惑になるので、車の中で声を出しながらやりました(笑)。あとは、実際に現場で何パターンかやらせていただく中で、徐々に固まって、あそこに落ち着いたという感じでしたね。ムオムというキャラクターは謎が多いので、深みを出したいと試行錯誤しながら作り上げていき、強靭な肉体と強さと大きさを表現しなければいけないという思いもあって、声の奥行きは大事にしました。
 そして、後半になるとどんどん巨大化していくという表現。“うぅーあー”という中でも、それを全て母音だけで喋るのか、それとも少し言葉として言ってしまうのか。そのあたりも試行錯誤しながら仕上げました。字幕と全く同じ言葉じゃなくて、字幕と同じニュアンスのような違う言葉を使ったり、そういう細かなことも散りばめられてますので、そのあたりも感じ取っていただけたらなと思います」

 2023年には、『ルパン三世』を新作歌舞伎で演じた愛之助さん(『流白浪燦星』)。『ルパン三世』の魅力をどう捉えているのだろうか。

「私が演じたのは歌舞伎の中の『ルパン三世』であり、“歌舞伎の世界にもしルパン一味がいたら”というIfの物語、夢の世界を描かせていただいたわけなんですけれども、それでも、この『ルパン三世』が持つ作品のパワーは肌身で感じました。皆さん、もう“待ってました!”みたいな感じなんです。そのパワーには随分助けられましたね」

 作品が持つパワーはアニメのスタートから半世紀以上が経っても変わることがない。

「だから『ルパン』は、僕から見たらある意味、歌舞伎なんですよね。声優さんも引き継がれていく、2代目になって3代目になっていく。キャラクターは年を取りませんし、ずっと変わらないものを演じていく。でも、新しくなって変化も生まれる、本当に歌舞伎みたいだなと思うんです。そういう作品に携われるのは光栄ですよね」

 歌舞伎はもちろんのこと、映像作品など幅広く活躍する愛之助さん。しかし声の仕事はまた違った難しさがあるという。