■人生に宝くじはありません

「たとえば、近年で一番大きく人生が変わったきっかけはなんですか、と聞かれたら、ゴスペラーズの北山陽一さんとの出会いです、と答えます。
 でも、その背後には、大学生の時ラップ聴いてました。大学院生の時に頑張って分析しました。論文にしました。
 岩波科学ライブラリーから本を出して、その分析を紹介しました。
 そうしたらいつの間にか、Zeebraさんに出会いました。
 Zeebraさんが認めてくれました。
 フリースタイルダンジョン出ました。
 Kダブさんに会いました。
 Kダブさんに、言葉をいただきました。
 コロナでオンライン授業になって、授業がつまらなくなっている学生のために色々工夫しました。
 Kダブさんと出た番組を紹介しながら、人文系の学問の意義をもう一度学生みんなと考えてみました。
 そして、その授業に、北山陽一がいたんです。
 なにも北山陽一が、王子様のように現れて、私の人生を変えてくれたわけではないんですよ。
 という意味で、地道なチェンジが積み重なることで、人生って変わっていくから、面白いんじゃないかな。

 人生に宝くじはありません。
 毎日の努力が、やがて大きな流れになって人生を変えてくれると信じています」
 
 最後の最後に、川原さんに「研究者としていちばん楽しい瞬間はなんですか?」という質問を投げかけてみると、

「結果を見る瞬間ですね。ここだけは間違いないですね。まずはデータ集めに注力して、その後の分析で出てきたグラフを見るのが楽しい。予測通りでも、予測と違っていても同じように楽しいです。」

 その日一番の笑顔と弾んだ声で、この答えが返ってきた。
「知りたい、そして楽しい」という気持ちこそが、すべての原動力。
 川原繁人さんの新たな研究が、日本語をさらにおもしろくしてくれるはずだ。

川原繁人 かわはら・しげと
1980年生まれ。1998年国際基督教大学に進学。2000年カリフォルニア大学への交換留学のため渡米。1年間の留学生活を通してことばの不思議に魅せられ、言語学の道へ進むことを決意。卒業後、2002年に大学院修行のため再渡米。2007年マサチューセッツ大学にて博士号(言語学)を取得。米国で教鞭を執ることになり、ジョージア大学助教授、ラトガーズ大学助教授を経て、2013年より慶應義塾大学言語文化研究所に移籍。現在、教授。専門は音声学・音韻論・一般言語学。過去の著作に『「あ」は「い」より大きい!?:音象徴で学ぶ音声学入門』(ひつじ書房・2017年)、『フリースタイル言語学』(大和書房・2022年)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社・2022年)がある。新刊、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を2023年7月21日に上梓。10月には自身のラップ研究をまとめた『言語学的ラップの世界(feat. Mummy-D, 晋平太、TKda黒ぶち、しあ)』を東京書籍より発刊予定。