ポケモン』の名前を聞くだけで、その特徴がわかる。『プリキュア』たちの名前には明らかに多く出現する音がある。『呪術廻戦』『鬼滅の刃』のキャラ名、『ドラクエ』の呪文にも法則が存在する。「にせたぬきじる」と「にせだぬきじる」の違いは小学生でも知っているーー。
 おもしろすぎる日本語を分析する言語学者・川原繁人の活躍は、まさに縦横無尽だ。『フリースタイルダンジョン』に出演し、慶應義塾大学で教壇に立つ彼の「THECHANGE」とはーー。

川原繁人 撮影/三浦龍児

BLコミックの「攻め」と「受け」のキャラクターの名前でわかる傾向

「これ、出てますね」

 と、川原繁人さんは、取材時にスタッフが持参したボーイズラブ=BLの登場人物の名前の分析リストを見てつぶやいた。

 このリストとは、BLコミック作品に登場する80組の「攻め」と「受け」のキャラクターの名前の第1音を阻害音と共鳴音で分類したもの。
 阻害音とは、口腔内気圧が上がる音で、ごく簡単にいうと「濁点がつけられる、もしくはついているもの」。子音ではp/t/k/b/d/g/s/z/hが例としてあり、角ばった印象で男性的。
 反対に共鳴音は、口腔内気圧があまり上がらない音で「濁点がつけられないもの」となる。子音ではm/n/y/r/wとなり、丸っこい印象で女性的になる。

 たとえば仮に、攻めが「たかし」、受けが「ゆうま」だとすると、前者は阻害音、後者は共鳴音で構成される名前ということになる。攻めと受けそれぞれに王道の像があるBLジャンルでは、音のイメージがキャラクターの特徴と結びついて名付けに影響し、攻めには尖った印象のある阻害音が、受けには柔らかい共鳴音が多いのでは、という予想に基づいて、データを取ったものだった。

 リストに目を通した川原さんは、過去に自身が行ったメイドの名前の分析のときよりはっきり、「攻め」には阻害音が多く、「受け」には共鳴音が多い、という傾向が出ている、と教えてくれた。

「素晴らしいと思います。出てますね。2022年に『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』を書いたあと、匿名希望の研究者から、女王様の名前を見てみたら、阻害音しか入ってなかった、という連絡をもらったこともありました。確かに、マオちゃんみたいな女王様はいなさそうですよね。
 もうこのデータをもとに、一緒にBL漫画の主人公の名前について論文書きますか?(笑) 
 でも、こういうことって多いんです。ポケモンの研究も、始まったときはこんな感じだったんですよね。学生がこんなデータあるんですけど、って持ってきてくれたのがポケモン言語学のはじまりです」