『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』のヒットメーカー、矢口史靖監督が、長澤まさみを主演に迎え、『ドールハウス』で初めて“ゾクゾクする”長編ミステリー映画を撮りあげた。数多くの有名監督を輩出してきた自主映画祭「ぴあフィルムフェスティバルのコンペティション」でグランプリに輝いたことをきっかけに劇場デビューした矢口監督のTHE CHANGEとは――。 

矢口史靖 撮影/有坂政晴

 

 矢口監督は、1990年の「ぴあフィルムフェスティバル」で、8ミリ作品『雨女』がグランプリ受賞したことをきっかけに、劇場映画監督デビューへの道が開けていった。 

――監督にとって人生の転機、チェンジの瞬間を挙げるならいつになりますか? 

「僕は美大(東京造形大学)に入ったんですけど、絵じゃなくて、自主映画を作り始めたことでしょうか。1つ先輩だった鈴木卓爾さん(※)に映画研究部員募集で見せてもらった映画を観て、“映画って、自分で作っていいものなんだ”という発見をした。それで導かれるようにして映研に入ってしまって、すぐに自主映画を1本作りました。10月の文化祭で一般のお客さんに観てもらえるということで」 

※鈴木卓爾:脚本家、俳優、映画監督。京都造形芸術大学准教授。矢口監督とは1994年から短編映画シリーズ『ワンピース』を撮り続けている。

――作ったものを観てもらったときのことは覚えていますか? 

「ものすごく快感でした。正直、作っているときは全然楽しくなかった。いろんな人に迷惑をかけて、スケジュールを調整して、お金はどんどん出ていくし。こうやって作るんだという作り方を日々覚えていく過程は面白くはあるけれど、とにかく苦しくて」 

――苦しいのに完成まで行けたのは。 

「人に観せたかったからです。大学の学生たちもですけど、文化祭はとにかく一般の人たちに観てもらえると。実際、これがすごくウケて、しびれてしまったんです。素人が作った映画でお客さんがこんなに沸くなんて、と。“俺が作ったんだぜ!”って。映写室の中で喜びにうちふるえて、興奮してしまってやめられなくなった。それで今日にまでなりました。だから僕は今でもずっと自主映画をやっている気分なんです」