「この仕事を続けていく限り、いい芝居とは何か、いい映画とは何かということを考え続けていく」

――例えば私の場合、「いい記事って何だろう?いいインタビューとは?」ということをいつも考えているのですが、池松さんは「いい芝居とは?」といったことを考えることはありますか?

「もちろんあります。でもそれは大袈裟に言うと“愛とは何か”を考えているのと同じようなもので、おそらく永遠の答えというものは出ないものだと思っています。ですがこの仕事を続けていく限り、いい芝居とは何か、いい映画とは何かということを考え続けていくと思います。そのことを考え続けること、目指し続けることが自分にとって楽しいことなんです。同じように情熱を注ぐ人たちに出会い刺激を受けながら、ベストを目指し続けていきたいと思っています。

“あの映画からもらったあの感覚”とか、“あの映画のあの俳優さんから受け取った何か”といった“感覚的な何か”みたいなことがあるんです。ですがそれは形容し難いもので、言葉にはならないんですよね。そうした感覚的な何かを、お芝居の中でいつも考えていると思います」

――きっとそれが池松さんにとって、俳優を続けていく原動力にもなっているのでしょうね。

「演じること、物作りというものに飽きたことがないんです。自分自身のモチベーションが下がったこともほとんどないんです。この仕事において、それ以外の部分を含めると大変なことはたくさんありますが、いま自分に与えられているこの恵まれた環境に感謝しきれません」

――今回の出演を経て、改めて思ったことや考えたことはありますか?

「やはり、人の善意の可能性や、信念や、献身についてです。行き過ぎた資本主義のなかでその価値が見失われ、失われつつあった人間の可能性を、この映画によって今一度考えさせてもらえました。

 そして5年前の出来事を改めて振り返る機会をいただきました」

――映画を見て「あの時、自分はどう思って、何を感じていたのか」を思い出しました。

「様々なことを思い出しました。とても簡潔に答えることはできない時間です。真田先生という役を演じる中で、自分がもし医者としてあの船に乗って、目の前に苦しんでいる人達がいて、日々無力さを感じながらも何ができただろうかと最後まで考え続けていました。目の前の人の苦しみや痛みを見つめ、何を与えることができたのか。そうした感情も、あのパンデミックが教えてくれたことのひとつだと思いました」