25年ぶりに、願いをかなえることができた
雑誌記者として働くことになるのですが、ここでは世の中の読み解き方を学ぶことができました。今でも覚えていますが、最初の取材はオウム真理教に関するものでした。実際に取材をしてみると、報道されていることと現実は、思った以上に違うんだと思い知りました。
記者として働きつつも、まだ映画のことが頭の中にあって、映画業界への強い憧れも持ち続けていました。記者としては、著名人のインタビューも手掛けていたので、映画関係者のインタビュー企画を頻繁に提出していましたね。実際に取材現場で映画関係者に会うと、めちゃくちゃ営業活動をしていました(笑)。「本当は映画をやりたいんです!」とね。
当時、インタビューをして、特に印象に残っているのは、映画音楽も多く手掛けている作曲家の久石譲さん。僕は久石さんの音楽が大好きなんです。ご本人に直接、「僕は映画監督を志望しているので、いつか映画を撮ることになったときは、ぜひ音楽を作ってください」ってアピールしました。実は、ちょっと前に久石さんと仕事をする機会をいただいて、25年ぶりに、この願いをかなえることができたんですよ。
映画の撮影現場にも、よく取材で行きました。ただ、当時の現場って怖かったんですよ。とある映画会社の現場とかは、特にピリピリしてて……(笑)。そんな場所に足を踏み入れると、いくら映画が大好きな僕も、ちょっと自信をなくしましたね。そういう雰囲気は本当に苦手なんですよ。ちなみに今、僕の映画の撮影現場では、ピリピリするのは禁止。 “オラつき”は絶対に厳禁ですね。まあ、そもそも映画業界全体でも、もうそんなに怖い現場や、怒鳴り散らす人は、減ってきてるとは思いますけどね。
内田英治(うちだ えいじ)
1971年生まれ、ブラジル・リオデジャネイロ出身。『週刊プレイボーイ』の記者を経て99年『教習所物語』(TBS系)で脚本家デビュー。伊藤沙莉主演の映画『獣道』が多くの海外映画祭で評価されたのち、2019年、脚本・監督の一翼を担ったネットフリックスオリジナルドラマ『全裸監督』が世界で配信され、話題を席巻。翌年公開の『ミッドナイトスワン』が2021年に日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞し、世界各国の映画祭で上映された。脚本家・映画監督として現在も数多くの作品を手がける。
映画『逆火』
助監督の野島は、とある自伝小説の映画化にとりかかる。しかし、取材を進めるうちに、貧困のヤングケアラーでありながら成功したという“実話” にある疑惑が浮かび上がる。真実を求め奮闘するうち、野島の日常は崩れ始める……。
7月11日(金)公開