映画の製作現場って、良くも悪くも、特殊な世界だと思います
母親からのプレッシャーはありましたが、結局、僕には映画以外の選択肢がなかったんです。とにかく映画を作ってみたかった。今から振り返ってみれば、記者をしながらも、映画への夢は持ち続けられたことは、とても重要だったと思います。
『思考は現実化する』なんてタイトルのビジネス書がありますが、これは本当に正しい。思考しないと何も始まりません。
僕のいる映画の製作現場って、良くも悪くも、特殊な世界だと思います。大勢のスタッフ、キャストが、分業制で1つのものを作っているのですが、「思想」「やり方」「美学」などは、それぞれ違います。違うどころか、それぞれ強い意志を持っていることが多いんですよね。そんな中で、ぶつかることも多い。それが結構、大変で、面白いんです。僕が原案・監督を務めた映画『逆火』では、そんな映画の製作現場を舞台にしました。
『逆火』は、現代社会の抱える問題や矛盾を映画製作現場という舞台を通して、人間の表と裏をあぶり出していくストーリーです。オリジナル作品で、インディーズフィルムとして、自由に好きなことができた作品でした。
この作品では「ヤングケアラー」「トー横」など社会問題に関することにも触れています。自分で、これらに関係する取材もしました。こんなときは記者の経験が生きてきますね。今でも取材して、人に話を聞くのは好きなんですよ。映画作りの準備のための取材だったのに、話を聞くだけで満足しちゃったりするときもあるくらいなんです(笑)。
内田英治(うちだ えいじ)
1971年生まれ、ブラジル・リオデジャネイロ出身。『週刊プレイボーイ』の記者を経て99年『教習所物語』(TBS系)で脚本家デビュー。伊藤沙莉主演の映画『獣道』が多くの海外映画祭で評価されたのち、2019年、脚本・監督の一翼を担ったネットフリックスオリジナルドラマ『全裸監督』が世界で配信され、話題を席巻。翌年公開の『ミッドナイトスワン』が2021年に日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞し、世界各国の映画祭で上映された。脚本家・映画監督として現在も数多くの作品を手がける。
映画『逆火』
助監督の野島は、とある自伝小説の映画化にとりかかる。しかし、取材を進めるうちに、貧困のヤングケアラーでありながら成功したという“実話” にある疑惑が浮かび上がる。真実を求め奮闘するうち、野島の日常は崩れ始める……。
7月11日(金)公開