2019年に松本清張賞を受賞し、小説家としてデビューを飾った坂上泉さん。西南戦争の落ちこぼれ兵士が躍動する『へぼ侍』、戦後大阪を舞台にした警察小説『インビジブル』に続く長編第3作『渚の螢火』は、本土復帰前の沖縄で起きた100万ドル強奪事件を描いたクライムサスペンス。2025年10月から、この小説を原作とした『連続ドラマW 1972 渚の螢火』がWOWOWが放送・配信されることになった。本作に込めた思い、ドラマの見どころとは。【第1回/全2回】

坂上泉 撮影/川しまゆうこ

「小説家デビューしてから、“エラいこっちゃ”の連続。中でも『渚の螢火』のドラマ化は、とびきり大きな“エラいこっちゃ”でした。実在する俳優さんやマンガのキャラクターを思い浮かべながら執筆した小説ではありましたが、まさか本当にドラマになるとは」

 確かにこの小説を読めば、坂上さんが「エラいこっちゃ」となるのもうなずける。なにしろ『渚の螢火』は、1972年、米軍占領下の沖縄が舞台。本土復帰を目前に控え、ドルから円へ通貨が切り替わるタイミングで起きた100万ドル強奪事件を描いた警察小説だ。それを実写で再現しようというのだから、実に思い切った挑戦と言えるだろう。そもそも坂上さんは、どのようなきっかけでこの小説の着想を得たのだろうか。

「かつて沖縄には琉球警察があったと、ネットで見たことがありました。現在の沖縄県警の源流となる組織ですが、沖縄戦を経て県警はいったん消滅し、米軍占領下で新たに琉球警察が発足したんです。本土の警察とはまったく違う歴史をたどっていますし、米軍の支配下にあるため、立場も複雑です。その点に興味を惹かれました」

 さらに、2005年に公開されたイギリス映画『ミリオンズ』からもヒントを得たという。