タイムリミットサスペンスとしての読みごたえも十分
「イギリスの通貨がポンドからユーロに切り替わるという架空の設定のもと、子どもたちが回収されたポンド札が詰まったバッグを拾ってしまうんです。“沖縄の通貨がドルから円に変わるタイミングでこうした事件が起き、琉球警察に捜査させたら面白くなるんじゃないか”と考え、この物語が生まれました」
執筆にあたって、多岐にわたる資料にあたった。坂上さんにとっても新たな発見が多かったと話す。
「50数年前の沖縄ですから、文献や写真もけっこう残っています。本土の警察庁は古めかしい役所のような雰囲気でしたが、琉球警察はパトカーがアメ車だったり、警察官がカービン銃を持っていたり、署内にウォーターサーバーが設置されていたりとアメリカナイズドされていたんですね。また、琉球警察内にはアメリカ側に内通しているインフォーマー、つまりスパイもいたようです。戦後日本のノワール的な雰囲気もところどころに感じました」

緻密な時代考証で1972年の沖縄の空気を立ちのぼらせただけでなく、タイムリミットサスペンスとしての読みごたえも十分。物語は、現金輸送車が何者かに襲われ、100万ドルが奪われたところから大きく動き出す。事件が表沙汰になれば日米外交紛争に発展しかねないため、捜査にあたるのは特別対策室班長の真栄田を含めてわずか5名のみ。しかも、本土復帰までの2週間強で事件を解決しなければならない。ドラマで真栄田役を演じるのは高橋一生さん。彼は石垣島に生まれ、沖縄本島の高校、本土の大学を経て琉球警察へと進んだ人物。居場所が定まらず、アイデンティティが揺らぐ複雑な心情を、高橋さんが繊細に表現している。
「真栄田は、本土と沖縄、沖縄本島と八重山(石垣島を含む八重山諸島)の間で揺らぎ、琉球警察内の軋轢を受け止める人物です。ドラマでも何かと我慢を強いられ、耐え忍ぶシーンが多いんですよね。静的な深みを感じる演技が素晴らしいと思いました」