「新しいことをやりたい」“いい子”だった矢井田がチェンジした瞬間とは

「そんないい子が、高校卒業時に“自由だ!”って解放され、大人になった気がして、これからはなんでもできると感じたんです。“これまでの人生で全然触れてこなかった、新しいことをやりたいな”と思っていたとき、大学のキャンパスで男友達がアンプを通さずにエレキギターを弾いていて、普段より何倍もカッコよく見えたんです。彼には失礼だけど、“きっとこれはギターにマジックがあるんだ”と思ったんですよ。弦楽器は全く未知のものだったし、すごく魅力的に見えたので、すぐにアコースティックギターを買いに行きました」

 誰よりも自由を謳歌(おうか)していたかに見えたヤイコが、自分を抑えながら生きてきたとは驚きだ。

「父からはそう言われたことはありませんでしたが、大学教授だったこともあり、研究職とかそうした堅実な道に進んでほしいのかなと、子ども心に勝手に受け取っていたんですよね。だけど、アコースティックギターで初めて簡単なコード、たしかCかGか、Fあたりを抑えて、ジャーンって鳴らしたとき、そうした気遣いを忘れるくらい心が震えて、“これ、一生できる!”って思いました。なんとも説明が難しいんですけど、ビリビリっと感電したというか。
 当時、よく練習したのは70年代のフォークソングです。幼いころ、父がよく聴いていたので親しみがあったんです。それで、辞書みたいに分厚いフォークソング集を買って、コードが少ない曲を選んで練習しました。欧陽菲菲さんの『ラヴ・イズ・オーヴァー』は、コードが4つか5つだし、テンポもあまり速くないからよく歌ってましたね」