ピンチから救ってくれた救世主は「今回もミュージシャンの方でした」

 周りへの思いやりから、退路を断つ。言うは易いが、なかなかできることではない。だからこそ、ヤイコはカッコいいのだが、いまこうしてまた復帰できたきっかけは何だったのだろう。

「この前お話した(*)HEATWAVEの山口(洋)さんではないですが、窮地を救ってくれたのは、今回もミュージシャンの方でした。願いがかなって親になり、娘を育てながら“このまま母親として生きていくのもステキな人生だな”と思っていたとき、ドラマーの小関純匡さんが、“ヤイコちゃん、歌ってなあかんで。辞めたらもったいないで”って、まるで歌い続けるのが当たり前みたいに言ってくれたんです」

矢井田 瞳 撮影/冨田望

「すごく真剣な感じじゃなかったから、余計に響いたというか。そのころ、赤ちゃんと二人きりの時間を過ごしていると、めちゃくちゃ愛おしいんですが、同時に、社会と断絶されたような気がして孤独を感じていて。人生のピンチだったんです。
 でも、先ほど話したように、所属事務所もレーベルの契約も解除してしまった。それを小関さんに伝えたら“そんなん関係ないやん。ライブハウスで歌いたかったら、俺ドラムをたたくよ”と、言ってくれました。小関さんの言葉から、音楽って何かに縛られてやるものじゃなく、“歌いたいときに歌えばいい”という原点に、立ち返ることができたんです。ピンチを脱することができました」