音楽劇『エノケン』に出演する松雪泰子。エノケンふたりの妻を演じる
浅草オペラから、テレビまで。日本人を笑わせ、楽しませ続けた喜劇王・榎本健一の生涯を軸に、昭和の芸能界の人間模様を描いた音楽劇『エノケン』で松雪が演じるのは、エノケンの二人の妻、花島喜世子と榎本よしゑの二役。今回、市村正親が演じるエノケンも在籍した「カジノ・フォーリー」のダンサーで最初の妻になる喜世子と、柳橋の元芸者で晩年のエノケンを支えたよしゑに挑む。
──いま、演じる二人にはどのような印象を抱いているでしょうか?
「喜世子さんは静かな情熱の中に芯の強さをお持ちの女性という印象で、よしゑさんは芸者でいらしたので、とても柔らかな、包み込むようなエネルギーをお持ちだなと思います。それでいて、よしゑさんも芯が強くて、エノケンさんに深い愛を持っていた方だなと、これまで読んだ資料から思いました」

──役作りには、何を参考にしましたか。
「よしゑさんが書かれた『浮世あまから峠道―エノケンと泣いて笑って五十年』という、エノケンさんとの思い出をつづった本も読むことができました。とても柔らかな感情で書かれた本で、よしゑさんと喜世子さんはお付き合いもあったそうです。違う角度から一人の人生を支えていた、というのも稀有(けう)な関係だなと思いますが、この三人の関係性を丹念に表現していきたいです」