先人たちからの学びや思いを次世代へ「いただいた教えを、しっかり伝えなきゃいけない」

「そういうことを、自分が少しずつ演出するようになって見えてきたし、改めて演出家の言うことを聞く大切さに気づいたんです。だって、演出家は芝居の全部が見えているし、見えてなきゃいけない。役者のどんな問いにも、即座に答えられなきゃダメだからです。それに、若い役者さんの中には、着物を着たときの所作なんかを知らない人も多いから、そうした所作についても正解を分かってないと、芝居そのものが陳腐になっちゃうんですよ」

「かつては、日本舞踊の師範で着物を着たときの美しい所作を知っている方や、太刀の作法にめちゃめちゃ詳しい先輩方がたくさんおられて、その人たちに聞けば大丈夫っていうところがあった。けど、そうしたすごい人たちが、いま、みんな旅立たれて……。自分がいただいた教えを、しっかり伝えなきゃいけないみたいな気持ちにはなりますよね」

“物事は細部に宿る”とはよく言うが、そうした隅々まで情熱を注いできたからこそ、今の岡本健一が築かれたのだろう。

 ただ、演劇への熱くて深い思いを語りながらも、ときおりふと我に返ったように、「こんなふうに言葉で説明しようとすることが野暮なんだよって、先輩方に笑われちゃいそうですけどね」と、少し自嘲気味に岡本さんは笑った。

 全身全霊をかけて表現を追求する、そのモチベーションは、どこから来るのかと聞くと、シンプルでまっすぐな言葉が返ってきた。

「どの作品でも、自分の仕事を誇れないのは嫌なんです。まあ、今回はいいかって、ちょっとでも諦めが混じったものを届けたら、確実に見る人に伝わりますし、そのダメさ加減が自分に必ず跳ね返ってくる。それも、とんでもない勢いで返ってくるんですよ。
 自分の甘えから、ものすごいしっぺ返しにあってつらい思いをするくらいなら、全精力を傾けてひとつの作品に注ぎたいじゃないですか。足を運んでくださったお客様に、チケット代以上のものを届けたいんです」

 ステージの上で精一杯に力を出し切り、観客に感動や喜びを贈る。それは演劇でも音楽ライブでも変わらないだろう。ただ、届ける側としては芝居と音楽では心持ちに違いがあるのだと岡本さんはいう。

「音楽は基本的に俺にとって快楽なんです。みんなが奏でる生音が聴こえてきた時点で、空気が変わる。それに乗せて誰かが歌い始めると、もうバンドの世界に入っていく……、それだけでもう、ある意味、完璧な世界なんです。
 だから、いまはツアーのリハーサルをやったりしてるけど、それだけで相当、気持ちいいんですよ。ただ、そのためにはやっぱり練習は必要なんです。そうしないと、みんなと音を出すときに気持ちよくなれないからね。自分だけ音を出すのに必死になってたら、楽しめないじゃない? だから、地方で舞台があるときなんか、ギターを持参してホテルの部屋で練習の日々ですよ(笑)」