監督から「お前なんか役者じゃない!」と
「大目玉です。僕は伊藤かずえさんの恋人役でした。沼津のロケで、伊藤さんが沼津駅から出てくるのを引きで撮影していました。デビュー当時、カメラの後ろで見ているようにと言われていたので、そのときも僕はカメラの後ろから見ていたんです。まだ誰にも紹介もされていなくて、知っているのは、助監督と衣装さんだけでした。スタッフのうしろから見ていたら、“何をやっているんですか?”と地元の方に話しかけられたんです。なので“撮影です。金田賢一さんと伊藤かずえさんが出ていて……”と聞かれるがままに答えていました。その間に、撮影の本体が、伊藤さんのアップを撮るために移動していて」
――はい。
「それで僕も“じゃあ、撮影なので”と向かったら、監督から“バカヤロー!なに、女の子とくっちゃべってんだ!”と怒鳴られて。“お前なんか役者じゃない!”と。それが初日です。その日から、やることなすこと、全部怒られました。“邪魔だ”“そこにいるんじゃない”“そばにいろ、バカヤロー”って。もう現場では“おはようございます”と“お疲れさま”しか言わなくなってましたね。胸の奥では“この監督に、お前よかったぞ”って絶対に言わせてやる!と思っていました」
――落ち込んでしまうわけではなかったんですね。
「見返してやりたいとか、認めさせたいという気持ちが湧いていました。ちょうど劇中にもそれに合致したセリフがあって、そのときの自分の思いを乗せてば~っと喋ったら、それを見ていた春日千春さんという、大変有名で一時代を築いた大映ドラマの中興の祖とも言われるプロデューサーが、“反抗的な目がいい。自分の若いときに似ている”と言ってくださって。僕としては現場に対する反抗心が役に乗って出ていただけなんですけど。それがいいと言われて『不良少女とよばれて』に繋がったんです」

――松村さんの目は魅力的ですから。そういえば当時、子どももみんな「大映テレビ制作のドラマを見る」という認識でした。テレビ局ではなく。
「局をまたいでましたからね。大映ドラマの色があって、日常はこんな会話しないだろうというセリフがあったり(笑)。でもそれがみんなの心に、“なんだ?”と引っ掛かったんでしょうね」
――いまでもよく覚えているシーンやセリフはありますか?
「逃げる伊藤かずえさんをバイクで追いかけて、そのまま川まで入っていったときに、伊藤さんに“あなた、何者よ?”と言われて、“俺は海鳴りだ”と返すという(笑)。しかもそのまま僕は帰っちゃうんです」
――『乳姉妹』の路男と千鶴子ですね。