大部屋で10人ほどの内弟子と寝起きを共に「午前5時頃からパチン、パチンという碁石を打つ音が聞こえて…」

 木谷先生の屋敷では、大部屋に10人ほどの内弟子と寝起きを共にしていました。朝は近くの公園に集まってラジオ体操から一日が始まり、その出欠表を壁に張り出すほど厳格でした。

 でもその前に、午前5時頃からパチン、パチンという碁石を打つ音が聞こえて、自然に目覚めてしまう。本に載るような有名棋士の実戦棋譜を手元に並べて、誰かが自主トレを始めているんですね。「すごい道場に来たなあ」と思ったものです。

 体操から戻って朝食まで、囲碁の勉強や対局。そのうち通い弟子たちも集まってきて、昼まで囲碁を学びます。

 午後は自由時間になるので、地元の中学や上智大学のグラウンドで弟子同士で野球をやったり、その帰りにこっそり麻雀をやったり。

 まだ高校に通っているような年頃ですから、酒やタバコはもちろん、麻雀も禁止だったんです。バレないようにしてるつもりでしたが、夕方戻ってくると、「お母さん」(木谷夫人)には全部お見通し。こたつの前に正座させられて「なんで麻雀などをやっているんですか」とお小言を並べられるんですね。

 私もハイハイと聞き流していればいいのですが、つい「囲碁の息抜きとしてちょっと」なんて口答えして、説教は延々と続いてしまったものです (笑) 。

 余談ですが、実は碁打ちは、ポーカーでもブリッジでも、ゲームと名のつくものは何をやらせても上手なんです。私も西洋すごろくのバックギャモンでタイトルを取ったこともあるし、今でもハマっていますね。

つづく

武宮正樹(たけみや まさき)
1951年1月1日 東京葛飾区生まれ。小3で囲碁を始めて連戦連勝。中学生でプロ棋士になり、中学卒業後に木谷道場の内弟子に。20歳で初タイトルの総理大臣杯を獲得。以降は本因坊、名人、世界囲碁選手権優勝ほか24期タイトルを獲得。自由な棋風から「宇宙流」と言われる。