これは破滅するなと思った

「だからなんなんだよ」という絶望にそれでも突き進んでいく感覚は、大なり小なり経験したことがある人もいるのではないだろうか。スマホゲームに夢中になったり、何かの景品のマスコットを集めるのに夢中になってしまったあと、急に訪れるあの感覚。しかし板倉さんの場合、その突き詰め方が凄まじく、やってくる絶望も想像を絶するほど大きいのではないだろうか。

ーー実際に、どれくらいやり込むんでしょうか。

「APEX(※大人気のオンラインFPS)とかめちゃくちゃやりましたね。19時間くらい。寝ないで。“1ゲームやって寝よう”って思ってもまたやっちゃうんですよね、“もう1回、もう1回”って。それで結局、毎日“もう寝なきゃやばい”っていう時間までやっちゃって。

 一度、明日は休みだっていう日に、“もう気にせずやってみろ、何時間やれば気が済むのかやってみろ”っていうふうに自分に問いかけて、実際にやってみたら19時間やっちゃって。これは破滅するなと思ったんですよね。ハマると歯止めが効かなくなるっていう。もうそういう歳じゃなくなったと自分では思ってたんですよ」

板倉俊之 撮影/片岡壮太

 この「もうそういう歳じゃなくなった」という言葉は、かつて板倉さんがやはりあるゲームにハマりにハマった記憶にもとづいている。

「以前、夏休みを丸々1つのゲームで潰してしまったことがあって、こんな思いをしちゃダメだと思ってたんですけどね。『エストポリス伝記』っていうロールプレイングゲームなんですけど、兄弟で交代しながらずっとやっていたんですよ、夏休み中。

 だから、昔から何にも変わってないんだなっていうことなんですよね。本性は何にも変わってない中で、大人になってやっぱり仕事をしないといけないという折り合いをつけていただけで、“開放したらずっとやるんだ結局”って思いました」

 苦笑いを浮かべながらそう話した板倉さんの表情は、しかし不思議と充実感を感じさせるものでもあった。何かを徹底的に突き詰めた先にあったのは絶望だけではなく、かつての自分では感じられなかった感覚の変化「THE CHANGE」だったのではないだろうか。

■プロフィール
板倉俊之(いたくらとしゆき)
1978年1月30日生、埼玉県志木市出身。NSC東京校4期生で、同期の堤下敦と98年にお笑いコンビ・インパルスを結成。『爆笑オンエアバトル』や『エンタの神様』など数々の番組で活躍すると、2001年から始まった伝説の番組『はねるのトびら』のメンバーとしてお茶の間の人気者となる。最近ではYoutubeでハイエースによる一人旅などの趣味を生かした、その名も「板倉 趣味チャンネル」を開設し多くのファンを獲得。また2009年には処女小説となる『トリガー』を上梓。現在までに小説6冊を世に送り出し、作家としても才能を発揮。23年8月に最新著作として自身初のエッセイ集『屋上とライフル』(飛鳥新社)を出版。