「店のトイレで売り込みました。ルール違反ですよね(笑)」
劇団にいた頃はバイトをしながらメチャクチャ邦画を観まくっていました。その頃のバイト先は、麻布十番の録音・編集スタジオ「アオイスタジオ」の1階にあった『カフェテラスアオイ』という喫茶店です。演劇集団「円」のロビーに貼られていた募集の告知を見てウエイターとして働き始めたんですが、結果的に約10年間もお世話になりました。
その頃観ていた映画の中で、特に僕の琴線に触れた作品のひとつが『その男、凶暴につき』です。ご存じの通り、北野武監督の1作目です。「なんでコメディアンの人がこんなにもリアルな芝居を撮れるんだろう」と衝撃を受けました。同時に、邦画の現場に参加したいという意欲も沸いてきたんです。
ある日、僕がバイトしていた喫茶店に北野監督がいらっしゃったんです。またとないチャンスが巡ってきたと、店のトイレで売り込みました。ルール違反ですよね(笑)。自分が逆の立場だったら「トイレぐらいゆっくりさせろ」ってブチ切れるかもしれませんよ。
その1年後、再び監督が来店されたんです。4本目の監督作『ソナチネ』のクランクインの前日でした。「あんちゃん、まだ役者やってるの? 頑張ってるな」と声をかけていただいたんです。僕のことを覚えていてくださったというだけでも嬉しかったんですが、その後もっと驚く出来事が待っていました。喫茶店のオーナーの奥さんが「監督、酷いじゃないですか!」って僕を押し退けて、怒り出したんです。
僕が1年間いろいろと準備をして北野監督の映画に出してもらいたいと頑張ってきたのに、オーディションがあることさえ教えてもらえなかったことにオーナーの奥さんは怒っていて「私、監督のこと見損ないました!」と怒り心頭だったんですね。奥さんの優しさは嬉しかったんですが“これはマズいな”と思って焦りました。すると、監督はその場にいたスタッフの方に「このあんちゃんも出ることになったから」と告げたんです。信じられないような展開でした。そんなご縁で『ソナチネ』に出演することになったんです。
つづく
津田寛治(つだ・かんじ)
1965年8月27日、福井県生まれ。AB型。T174。1993年、『ソナチネ』(北野武監督)で映画デビュー。『模倣犯』(02)で第45回ブルーリボン賞助演男優賞、『トウキョウソナタ』(08)で第23回高崎映画祭最優秀助演男優賞、『山中静夫氏の尊厳死』(20)で第30回日本映画批評家大賞主演男優賞を受賞。長編アニメーション映画『無名の人生』(25)では声優として出演を果たした。公開待機作に、タリン・ブラックナイト映画祭で日本人俳優として初めて最優秀男優賞を受賞した主演映画『THE FROG AND400THE WATER』がある。
映画『津田寛治に撮休はない』
撮影、稽古、打ち合わせ、イベント……に日々追われる俳優・津田寛治。そんな津田の周りで、ある日を境に不思議な出来事が起こるようになる……。
3月28日(土)より新宿K’s cinemaほか
全国順次公開
©映画『津田寛治に撮休はない』製作委員会