「僕、がんになりました」
２０１７年１２月、自身のブログで、多発性骨髄腫という血液がんで「余命３年」であることを公表した写真家・幡野広志。以来、彼のもとには大量の人生相談が届くようになり、それらと真摯に向き合った言葉をまとめた書籍『なんで僕に聞くんだろう。』（幻冬舎）はベストセラーになり、この８月には『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』（ポプラ社）も刊行された。
死を間近に感じながら、写真家·文筆家として活動を続ける幡野さんの人生の転機、「ＴＨＥ ＣＨＡＮＧＥ」とはなんだったのだろうかーー。【第３回／全５回】
取材当日は、台風の影響で雨模様だった。取材場所である、東京・麹町のポプラ社のオフィスの窓ガラスにぽつぽつと雨粒が当たる。その様子を見て、幡野さんは、「息子のおかげで、今では、こんな日も悪くないなと思えるようになりました」と嬉しそうに語った。
２０２３年０８月２３日発売の新著『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』（ポプラ社）は、幡野さんの日常を切り取った写真付きエッセイである。
「息子が生まれたことが、私にとっての最大の“チェンジ”ですね」
幡野さんに長男が誕生したのは、２０１６年のこと。翌２０１７年、幡野さんは「余命３年」の末期がんを宣告される。人生の転機が続いたわけだが、幡野さんの中では、長男の誕生ほどかけがいのない出来事はなかったようだ。
「結婚生活５年目で長男が誕生したんですけど、今では、それ以前の子どもがいなかった時期の妻との２人暮らしや、もっと前の、独身時代の生活はあまり覚えていません。それだけ、僕の中で、妻と子どもと３人で過ごした時間が色濃く残っています」
