2011年に女優としてデビュー以来、数多くの映画やドラマに出演し若手演技派女優の地位を確固たるものとしている門脇麦。NHKの連続テレビ小説『まれ』(15年)、大河ドラマ『麒麟がくる』(20年)での演技でも大きな注目を集めた。女優人生の中で訪れた「CHANGE」について語ってもらった。【第1回/全5回】
取材当日。「よろしくお願いします」と取材陣にあいさつをした門脇麦さんは、「え、今ってこんなのあるんですか?」と、記者のスマートフォンの画面を興味深そうに見つめる。「AIの技術で、音声から文字起こしをしてくれるアプリなんです」と伝えると、門脇さんは「すごいですね」と目を丸くする。あたたかな雰囲気で、インタビューが始まった。
あるミュージカルへの出演が人生を変えた
門脇さんの演技に「CHANGE」をもたらした人物がいる。
「お芝居を始めたばかりのころ、重い役柄が続いていたんです。重要な役をいただけるのはありがたかったのですが、日本の演出法では精神的に追い詰めて出てくる感情や、怒りのようなものが大事にされているように感じていました。
追い込んだ感情でしか出せない表現もあると思うのですが、そういった負の感情で演技をするのはパワーが必要ですし、忙しい中で重い役柄が続いてしまって、体調も崩してしまいました」
周りからは順風満帆に見えた女優としてのキャリアだったが、まさに「CHANGE」ともいえる出会いが、彼女の人生を一変させた。それはどのような出来事だったのだろうか。
「ちょうど25、6歳の時に、『わたしは真悟』(16年、フィリップ・ドゥクフレ演出)というミュージカルに出演したのが契機になりました。フランス出身のフィリップは、私の演技に“違う”と指導してきたんです。
そこで“すみません”って謝ったら、“あなたが今の演技で提示してくれたことは違う、ってわかったから、むしろ僕からしたらありがとうだよ。自分の提案やクリエイションに対して、謝らなくてよい”。そう言われました」
門脇さんは、ドゥクフレ氏の演出法にこれまでにない刺激を受けた。
「負の感情からは、良いものは出てこないと考えが変わりました。フィリップは“楽しんでやらないとクリエーションにならない”っておっしゃっていて、本当に目からうろこが落ちるほど衝撃を受けましたね。“演技って楽しんでいいんだ”って、自分の考えが変化した瞬間でした。
それまでは“楽しんではいけない”と思って、ずっと自分を苦しめていたんです。でも“楽しんでいい”って思って演じ始めたら、どんどんパワーが出てきて、そのとき彼と出会っていなかったら、今でも追い込みすぎていたかもしれませんね」