現場がクランクアップする時はいつも号泣

 それまでは役に没頭しすぎていた門脇さんだが、今は演技とプライベートを切り分けることができるようになった。

「それまでは負の感情を引きずっていたのですが、今は悲しいとかそういう表現を俯瞰で演じられていると思います。『わたしは真悟』をきっかけに、切り替えができるように変わったかもしれないですね。それまでは重い役だったらカットの声が掛かった後も“ずーん”と落ち込んでいたんです。でも今は、別の人間を演じることを楽しめるようになってきました」

 そのように充実した現場だと、終わる時は寂しくなかったのだろうか。

「『わたしは真悟』は楽しい現場で、終わる日は号泣しました(笑)。現場のみなさんともすごく仲良くなったので、離れるのが寂しかったです。NHKの大河ドラマ『麒麟がくる』も、撮影自体はすごく大変でしたが、長期間の撮影だったのでみんなと別れるのが寂しすぎて。クランクアップの日は泣きました。」

 演じることが楽しくなった近年では、ドラマなどで共演した仲間たちと過ごす現場が楽しくなったそうだ。

「今年、主演をさせていただいた『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系)は、元天才ヴァイオリニストという役柄だったので、楽器の練習がすごく大変でした。みんなで練習を頑張った思い出もあるので、撮影の終了が近づくと泣きそうになったんです。

 でも楽しみながらやりたいと思って、クランクアップまで我慢していました。そのあとに、メイキング用にコメント撮りをしていたら練習が辛かった思い出とか楽しかったことがよみがえってきて、“うっうっ”って涙が出てきました。あれ、なんかクランクアップで泣いてばかりですね(笑)」

『わたしは真悟』に出演してから、普段の生活にも「CHANGE」が訪れたという。

「私が演じる役は重い役が多かったので、そういう役を演じているときはプライベートでも楽しいことをしたらダメだと思っていたんです。孤独を感じていないと演じることができなくなるのではないか、と考えていたので、友達もあまり作ろうとしませんでした。

 演技のためにあえて孤独になる環境を作り出していたんです。そんなときに『わたしは真悟』で楽しく演じることができて、“人生は楽しんだ方が良いな”という価値観に変わってきました。そこから釣りに行くようになったり、キノコを見に出かけるようになったり、アクティブになりましたね」

 孤独を捨てて、アクティブになったからこそ気づいたことがある。

「結局、友だちが増えても孤独を感じるときは苦しいんだなって思いました。今回『ほつれる』で演じた綿子ではないですが、結婚しても孤独になっていくのでしょうね。でも、毎日を楽しく過ごすようになったら仕事も楽しくなって、私自身がパワフルになったと思います。それは一番の変化かもしれないですね」

門脇麦 撮影/松野葉子

 終始、笑顔を交えながら明快に質問に答えていってくれた門脇さん。彼女の演技は、これからも光り続けるだろう。

門脇麦(かどわきむぎ)
1992年ニューヨーク生まれ。2011年に『美咲ナンバーワン‼』(日本テレビ系)で女優デビュー。2014年に公開された『愛の渦』、『闇金ウシジマくん Part2』などの演技が評価され、第6回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、第36回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第88回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など新人各賞を受賞。2018年に公開された『止められるか、俺たちを』で主人公を演じ、第61回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。最新映画『ほつれる』では、主人公の綿子を演じる。
ヘアメイク:Yoko Fuseya(ESPER)/スタイリスト:Satoshi Takano
ドレス¥71,500、シューズ¥59,400(共にコズミックワンダー/センター・フォー・コズミックワンダー03・5774・6866)
バングル¥27,500(ヤエカ/ヤエカ アパートメント ストア03・5708・5586)
イヤーカフ¥15,400(パール オクトパシー/フィルグ ショールーム03・5357・8771)

映画『ほつれる』
主演・門脇麦 田村健太郎 染谷将太 黒木華
9月8日(金)、新宿ピカデリーほか全国公開
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