とりあえず全部盛り込んどかなきゃ、みたいな気持ちは常にありました

――たとえば、昔の作品などで“今の自分だったらこうやっていたな”と思う描写などはありますか。

「意外にそういうのないんですよね。ただ、盛り込みすぎたなっていうのは結構あるので、

 要素を減らして、作品にもうすこし空間を持たせてもよかったかなっていう作品もいくつかありますね」

 作品に要素を詰め込んでいたのは、当時の心境も影響していた。

「うまく言えないけど、20代、30代とか……そのときはあんまり自分が長生きする気がしてなかったので、とりあえず全部盛り込んどかなきゃ、みたいな気持ちは常にありました」

――吉本さんは現在59歳です。今後、年齢を重ねて80歳や90歳になっても小説を書く予定はありますか。

「いくつになっても、目が見えていれば書いているかな。目が見えてなくても、たぶん口述みたいにして、誰か専門の人に頼んで起こしてもらうかな」

吉本ばなな 撮影/湊亮太

 小説、エッセイなど精力的に新作を発表し続けている吉本さん。同じ時代に生き、新刊を心待ちにできることが幸運だと感じさせられた。

吉本ばなな(よしもとばなな)
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『はーばーらいと』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。