小説家・吉本ばななの作品は多くの読者から親しまれている。1987年のデビュー以来、著作は全世界で30か国語以上に翻訳され、映像化作品も多数。国語の教科書にも作品が掲載されており、いまも10代、20代の若い読者の心を揺さぶっている。そんな吉本さんの「THE CHANGE」を深堀りした。【第4回/全5回】

吉本ばなな 撮影/湊亮太

 吉本ばななの新作『はーばーらいと』(晶文社)では、主人公のつばさが宗教二世として生まれたヒロイン・ひばりのコミュニティからの脱出などが描かれている。吉本さんがいまこの物語を書いた理由は何だったのか。

「もともと宗教二世について調べていたんですけど、子どものときからそういうところに属していると、必ず性格の中に、その宗教の教えが入っていて。それをうまく活かせている子は、たぶんすごく前向きに生きられるんですよね。

 でも、どうしても自分の個性とその教えが折り合わないまま大きくなった子は、何かを求めれば求めるほど、どうしてもうまくいかない……みたいな。“そういう循環になるんだな”っていうのを見てきて、書きたいなと思いました」

 物語のなかでは、つばさがとある行動をして傷ついたひばりの気持ちに寄り添う。吉本さんに、「つばさがひばりに行ったように、相手を思いやる優しさ」を感じたことはあるのか、それが作品に影響したのかをたずねた。

「私は小説を書くときに自分に照らし合わせたりしないのでよくわからないですけれども、小説の中の話にかんして言うと、若い人たちが一つの宿舎で暮らすからどうしてもそういう問題が出てきちゃって、話を伺ってみるとそのことが後々まで苦しかったっていう方が多いんですね。

 それでいろいろ考えてみて。暴力に接したあとって一緒にいてくれる人が女性であってもやっぱり触れられるのはすごい恐怖だと思うんですね。だからどういうふうにしたら本当の優しさを表現できるだろうってすごい考えてそれでそのシーンを描いたんですけど……優しさって難しいなと思います」